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森田 朗 氏(東京大学政策ビジョン研究センター)「過去にとらわれない意識変革」

森田 朗 氏森田 朗 氏 |プロフィール(2011年1月現在)詳しく知る

1976年 東京大学法学部卒業
1993年 千葉大法経学部教授
1994年 東京大学大学院法学政治学研究科教授
2008年 東京大学 政策ビジョン研究センター長に就任
2009年 中央社会保険医療協議会(中医協) 公益委員

対談内容

未曾有の高齢社会を目前に、今我が国が抱える喫緊の社会課題を「都市部高齢者の孤立」と据えています。私たちは強い危機感を持って、現在高齢社会コミュニティモデルの構築に取り組んでいます。今回は、東京大学政策ビジョン研究センターの森田朗さんに、高齢社会における日本の医療のあり方を語っていただきました。


森田 朗 氏と対談01 本日は貴重なお時間をありがとうございます。森田さんは、政治学や地方自治研究、公共政策の専門家として、医療問題にもかかわっていらっしゃいます。財政的な面も含めて日本の医療のあり方について、お考えをうかがいたいと思います。
日本の医療は世界でもトップクラスで、平均寿命も世界一です。人口1億人を超える国で人類史上初の長寿社会であり、そこには医療が多大な貢献をしてきました。ところが高齢社会に入り、こうして築いてきた社会の医療体制のままでは、さまざまなミスマッチが生じます。
感染症による死亡率の高かった時代とは違い、今は人間の全体を健康管理することが必要になっているからです。在宅、診療所、病院の連携、診療科の連携が不可欠ですが、それがまだ十分整備できていないのではないでしょうか。
患者さんの状態に合わせた医療システムにどう変えていくのか、キーワードはネットワーク・連携です。医療費が増えるのはある程度仕方ないことですが、仕組みを上手に作ることで効率よく対応できると考えます。
患者さんを中心としたチームで医療や介護を行うというカルチャー変革ができれば、多くの人が仕事として医療・介護の分野に入ってきて、全体としてコストが下がるのではないでしょうか。
森田 朗 氏と対談02 トータルとして医療費が減るかどうかは別として、同じお金を使うなら効率的に使う必要があります。医師が一番偉くて何でもするという仕組みから、医師には医師しかできない仕事に専念してもらい、それ以外を回りのスタッフが支えるという役割分担の仕組みに変えていかなければなりません。
一つの病院の中のチームを作るとともに、それを地域全体でどう広げていくかが課題となるでしょう。高齢化に伴って、介護の他にも高齢者の判断力低下による財産管理の問題が出てきました。それを社会で支えていく仕組みが必要です。
自立して生活する方々が、医療介入が必要となる要介護3・4・5・・・と重度化しないようにすることも大切なことです。現在は、行政の施策として取り組まれていますが、これからは民間の力で高齢問題を乗り越えていかなくてはならないと思います。
本当にそのとおりですね。民間企業がビジネスとして行えるモデル構築が望まれます。保険会社や金融関係がITを駆使して、基本的に確認ができなければお金が動かないようにする財産管理サービスとか、不動産管理については、たとえば分譲マンションにおける現在の区分所有権の制度では解決できない問題をリバースモゲッジなどの仕組みで解決するとか、新たなビジネスサービスが必要となります。
森田 朗 氏と対談03 街づくりも同じです。健康な人を対象とした街づくりできたため、高齢化したときに対応できなくなります。その対策として集住というあり方が事例として出てきています。では次に、低負担で公的サービスを求める現状がありますが、負担とサービスに対するご意見をお願いいたします。
マクロ的に言えば、高齢化が進み医療の対象者が増え、またがん治療などの進歩で病気が治り、コストがかかるようになりました。底辺が広がり高さが伸びる、すなわちカバーする面積が広くなりました。しかし原資となる保険は、約34兆円の医療費のうち公費が約10兆円、高齢者医療を支えるために保険組合が拠出金を出していますが、国の債務が900兆円、1,000兆円になるという状況で、余力がありません。
底辺を絞ると医療を受けられない人たちが出ますし、高度医療を下げると、せっかく治療法があるのに使えないという事態が起こります。すべてをクリアに解決できる方法はないとは思いますが、ある程度の医療を皆保険で受けられる仕組みは崩さず、プラスアルファの部分を別建ての保険にする仕組み等をそろそろ考えていかなくてはならないと思います。
全て、現在の保険制度でカバーしようというのは無理ですから、消費税も含めて、負担を増やすことで、パイ全体を広げることが求められるでしょう。そのとき、資産や所得の多い人はいいですが、ない人はどうするかという問題が出てきますので、調整せざるを得ません。そこをきちんと行うには社会保障の番号制を取り入れ、平等に調整する仕組みを作る必要があります。20世紀後半から多くの先進国は福祉国家へシフトしました。
個人情報を国家に握られたくないという前提で成り立つ社会ではなくなったのです。判断能力がなくなってきた認知症の方々にも権利としてきちんとしたサービスを国家が提供していくとなると、行政サービスもこれまでの申請型からプッシュ型に変えなければできません。どのようなサービスが必要で、どのように負担を求めるのか、きめ細かく見ていくのが福祉国家だとすると、人間技でやるには膨大なコストがかかり、できません。
番号制度を導入しITを駆使していくのが新しい国のあり方で、皆が意識変革する必要があります。侵害を防ぐための権利ではなく、給付を受ける権利を行使するために必要な前提条件ではないかと思います。
私たちは今、課題を「都市部高齢者の孤立」と据え、強い危機感を持って、高齢社会コミュニティモデルの構築に取り組んでいます。まず居宅での在宅医療から入っておりますが、アドバイスがありましたらお願いいたします。
都市部ではコミュニティの形成が難しいという状況があります。農村部では地面でつながった地域社会がコミュニティですが、20年前くらいまでの都市部は、企業組織がコミュニティでした。それが崩壊して、年をとって新しいコミュニティを作ろうとしても厳しいものがあります。人間は、暮らしていた地域社会でだんだん年を取り、最期を迎えるのが基本的にハッピーです。 苦痛のときすぐに医師や看護師が在宅にきてくれ、病院に入院しているときと同じような形で安心して医療を受けられる仕組みができるのが理想です。
しかし、医療の効率化という視点で入院や入所するというのが現実で、在宅との格差があるところでは、本人や家族はそちらのほうが安心するという一種の神話があります。 実際は厳しい現実があり、いつまでも病院にいられるわけではありません。そうした体制を維持することはできなくなりました。
イメージの転換も含めて、シームレスな形で、急性期、療養期、介護、在宅医療を、施設ありきではなく受けるサービスの視点で対応することが必要です。そのためには連携を図っていく仕組みがなければなりません。社会のトレンドが見えてきた以上、またかつてのような経済成長を取り戻して右肩上がりの社会を目指すというのはやめたほうがいいでしょう。
人口が減り、高齢者が増える状況のなかでは、コンパクトで質を上げていくような仕組みで社会を作っていくという発想が必要です。そうした意味からも、先生の取り組みは大変意義深く、成功することを期待しています。
貴重なご意見をありがとうございました。

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武藤 真祐(聞き手)
武藤 真祐|医療法人社団鉄祐会 祐ホームクリニック 理事長 詳しく知る

1990年 開成高校卒業
1996年 東京大学医学部卒業
2002年 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了
2010年 祐ホームクリニック開設
2011年 祐ホームクリニック石巻開設
内閣官房高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 医療分野の取組みに関するタスクフォース構成員
みやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会 システム構築委員会 委員
石巻市医療・介護・福祉・くらしワーキンググループ委員
経済産業省地域新成長産業創出促進事業ソーシャルビジネス推進研究会委員等公職を歴任

森田 朗 氏と対談

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