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新浪 剛史 氏(株式会社ローソン代表取締役社長)「高齢社会日本における地域コミュニティ」

ローソン代表取締役社長 新浪 剛史 氏新浪 剛史 氏|プロフィール(2011年1月現在)詳しく知る

1981年  慶応義塾大学経済学部卒業
1981年 三菱商事株式会社入社
1991年 ハーバード大学経営大学院修了(MBA取得)
2005年 株式会社ローソン 代表取締役社長兼CEO就任

対談内容

高齢先進国である日本において、特に都市部高齢者の孤立に危機感を持ち、高齢社会コミュニティの再構築を目的とした在宅医療を中心とした産学官民のコンソーシアムの形成を試みております。その基盤として、2010年1月より在宅医療専門クリニックを開設いたしましてから約1年が経過しました。本日は、高齢社会日本における地域コミュニティについて、株式会社ローソン代表取締役社長の新浪剛史さんにお話を伺います。


ローソン代表取締役社長の新浪 剛史 氏と対談01 新浪さんには、在宅医療を始めたころに励ましていただきました。ようやく1年たって振り返ると、360人ほどの患者さんを拝見しました。そのうち居宅患者さんの3割がご逝去され、そのうち7割の方を、最期まで在宅で看取らせていただきました。
精一杯患者さんとご家族に必要な医療サポートをさせていただきましたが、そこで痛感しているのは、医療では救えない孤独がある、ということです。ある意味、患者やご家族の生活のために、医療ができること、医療だけでは足りないことが、よくわかりました。
そこで今は、必要なサービスを提供している企業や事業者と連携して、特に都市部の孤立した高齢者の生活を豊かなものにしたいと強く思っています。コンビニエンスストアは、間違いなく地域のインフラであり、コミュニティにおいて大きな存在感です。新浪さんは高齢社会をどのように考えておられますか。
今までコンビニは、若い世代、つまり元気で健康な人を対象にしてきました。しかし今後、社会構造が変わるのですから、コンビニも変わらなくてはいけません。今後社会の大きな割合を占める高齢者の方が来てわくわくするような場所にならないといけないと考えています。
高齢者というと、皆身体が動かないようなイメージがありますが、元気な方もすごく多いですよね。外に出て、必要なことは自分でやりたいはずです。少々身体的に機能が落ちても、例えばゴルフカートのような電気自動車など便利な移動手段があって、高齢者がすいすい移動できるといいですよね。
それでも、そう遠く行けるわけありません。例えば床屋や薬局、高齢者が必要な機能、楽しみにしている機能が、狭い範囲の中にぎゅっとあるような場所。その中にローソンもあるとうれしいですね。私は人が集まる「場」の例として、道の駅って魅力的だな、と思うのですよ。
道の駅は御存じのように、週末に人が集まっている。ですが、週末に旅行者が立ち寄る場所ではなく、地域の人が集まるような場所になればいいですね。その一方で、ラストマイル(人生の最終章)に家から出てこられない人たちへ何か届けられる仕組みは必ず必要で、作らなくてはいけませんね。
本当にそうですね。自宅から外に連れ出すのは大切ですよね。一方で、地域には、本当にお家に閉じこもってしまっている人が大勢います。
健康な人が健康で居続けるための楽しい場は必要ですし、今お話のような場があると、閉じこもった人にも「楽しそうだ」と思ってもらえて、社会に引き出すこともできるかもしれません。新浪さんの話は「楽しさ」「わくわく」というキーワードがとても伝わってきます。
ローソン代表取締役社長の新浪 剛史 氏と対談02 コンパクトシティの考え方ですよね。コンパクトシティというのは、ある一定のエリアの中に、色々な機能があって、そこに人が移り住んでいくイメージ。これは、行政の力がないと進まない話であり、しっかりやってもらうことに期待しています。
加えて、民間の力もとても重要なパーツ。コンパクトシティ、要は狭い中に色々な機能が集まってその中で人が年齢を重ねても豊かに暮らすことができる仕組みですが、財政が厳しい日本においては、国のお金に頼るのは無理でしょうか。
そうですね。長年暮らしている家にずっと住んでいたいというお年寄りはもちろん多いでしょう。しかし、医療でも介護でもその他のサービスでも、それぞれの自宅に届けるというのは、ある意味贅沢で公共サービスとしては、とても高負担です。私たちはどんなに遠くに住む人にも医療を届けています。それが、国民の希望ですから。
しかし、今まで日本は、あまねく広くサービスを提供することができましたが、もう無理だということを、国民皆が自覚しなくてはならないのでしょう。いずれは、自宅で住む代わりに社会的なサービスを受けにくくなるのか、それともサービスを求めて自宅を移り住んで「集住」するか、この選択を迫られるような時が来るのだと思います。
まさに私もそう思いますよ。私の親は高齢ですが、坂の上に住んでいます。例えば、転んで骨折でもしたら、大変です。もっと便利で身体の状態にあった場所に移り住むことを薦めているのですが、中々「うん」と言ってくれません。私は、離れて暮らしていても、親に引っ越しを薦めるのは、子どもの役割であると思うのですよ。
ローソン代表取締役社長の新浪 剛史 氏と対談03 そうですね、すばらしいお考えだと思います。また、地方と都市では、状況が違いますよね。 地方では、自営業や農業といった産業に従事しておられる方が多く、定年もない世界ですから身体が動く限り働いて、地域の人たちと支えたり支えられたりしながら、最期は「ぴんぴんころり」といったことも多いと思います。
しかし都市では、会社のつながりで生きてきました。会社を定年になったあとには、人との「縁」が切れてしまいます。とたんにすることがなくなり、同時に孤立してしまうことも多いのです。
そうだよね。「縁」は大事ですよね。それも、世代を超えた人との交流。高齢者だけで集めてはだめです。高齢だからこそ、若い人、子どもたちと交流をしていただく仕組みですね
まさに私もそう思います。私は、バーチャルな里親制度を考えたいのです。最初は、高齢者に学生や児童が手紙を書いたり、テレビ電話を通じて呼び掛けたりすることから始め、そうして高齢者を外へ連れ出す。そのうち、学生や児童が「会いたい」と言い始めてくれ、ボランティアでの自宅訪問が産まれたらいいな、と思うのです。
そして、区の施設にボランティアの拠点ができ、児童が高齢者への手紙を書いたり、テレビを介した日常的な交流が生まれたり、といった発展を思い描いています。ボランティアの障害は、対価にあります。ボランティアをするために、交通費を使って出かけていき、一日活動しても「ありがとう」の言葉だけでは、拡がりに限界があります。
いいことをしたい、何か役に立ちたいという人ひとは多いのですから、少しでも何かインセンティブになるようなものがあれば、拡がりが全く違うと思います。そのうちの一つとして、企業を巻き込んでの「サービスクーポン」のアイディアがあります。
ボランティアのニーズマッチングの仕組みを作り、ボランティアをした人に対価としてクーポンのようなもの渡せるとよいと思います。これは既に先行事例もあります。この仕組みを担保するのは行政ではなく、企業に期待しています。仕組みを担保するのですから、ぜひ「100年企業」に協力してほしいと考えています。
それはいいですね。自分たちも手に入れられるような制度にしたらいいのではないでしょうか。つまり、現役世代もそのクーポンが使えるようなものにするとか、サービスを世代間交流させるのもいいでしょうね。
医療や介護だけでなく、広い意味での社会的活動をしたら、ポイントがたまるような制度はどうでしょう。例えば、ペットボトルのふたを集めるとクーポンがもらえる、とか。そしてそれを、人にあげることができるといいですよね。
例えば、子どもが親にプレゼントするとか、「隣のおじいちゃんに、元気になってもらいたいから、プレゼントとしてちょっとあげようか」と地域の支え合いに使う、など。そういったことには、企業もお金を出すのではないしょうかね。
すばらしいですね。例えばクーポンでローソンのおにぎりが買えるとか、僕らであれば医療サービスを受けることができるとか、そういったことで、社会に善意の循環が生まれるのではないでしょうか。 最後に、私たちが取り組んでいる在宅医療に対してエールをいただけますか。
在宅医療というのはすばらしい活動です。しかし、自宅で介護をする人たちの精神的な苦しみを緩和する仕組みも併せて考えなくてはなりません。また、独居の人も多いだろうから、そういった人の心のケアを考えないといけませんね。
ローソン代表取締役社長の新浪 剛史 氏と対談04 まさにその通りで、介護疲れをしてしまう家族は多い。私たちは病院と連携をして、例えば1-2週間でも一時的に患者さんを入院させて、その間家族が休めるように、地域の様々な中規模病院と連携しています。
それはすばらしいね。社会では、デイケアなどの介護施設は、充実しているのですか。
23区は土地の値段も高いこともあり、まだまだ足りませんね。
場所の問題であれば、例えば小中学校の統廃合を進め、余った土地をそういった施設とすればいかがでしょうね。
その通りですね。限られたスペースだからこそ、社会が求める優先順位の高いものに使っていくことが重要ですね。私たちは、広い家に一人で暮らしている高齢者のところに、数人の高齢者を一緒に住んでもらうことができないかと思っています。新しい集住の形です。
そういった方には、ストックの資産はありますがフローの資産がありません。一緒に住まわせることで、収入が発生し、また社会活動に参加できるような仕組みも考えています。いつか、ローソンの2階が介護スペースとなる日を楽しみにしています。
あはは、上に介護施設ですか。武藤さんは東大医学部出身とは思えないですね。頭がとても軟らかい。色々なアイディアが実現することを願っています。応援していますよ。

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武藤 真祐(聞き手)
武藤 真祐|医療法人社団鉄祐会 祐ホームクリニック 理事長 詳しく知る

1990年 開成高校卒業
1996年 東京大学医学部卒業
2002年 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了
2010年 祐ホームクリニック開設
2011年 祐ホームクリニック石巻開設
内閣官房高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 医療分野の取組みに関するタスクフォース構成員
みやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会 システム構築委員会 委員
石巻市医療・介護・福祉・くらしワーキンググループ委員
経済産業省地域新成長産業創出促進事業ソーシャルビジネス推進研究会委員等公職を歴任

ローソン代表取締役社長の新浪 剛史 氏と対談

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