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古川 俊治 氏(参議院議員、慶應義塾大学法科大学院教授、医学部教授)
「70歳現役社会と最大幸福社会の実現」

古川 俊治 氏古川 俊治 氏|プロフィール(2011年4月現在)詳しく知る

1987年 慶應義塾大学 医学部卒業
1996年 慶應義塾大学 法学部卒業
1999年 弁護士登録(東京弁護士会)
2005年 オックスフォード大学ビジネス・スクール修士課程修了(MBA)
2007年 慶應義塾大学法科大学院教授・医学部教授(兼担)。 参議院議員初当選

対談内容

参議院議員である古川俊治先生は、医師・弁護士として医療現場にも精通していらっしゃり、中学・高校の先輩として、大変学ばせていただいています。今回は、高齢社会における医療のあり方、さらにこれからの日本社会のあり方に対するお考えを本音で語っていただきました。


本日は貴重なお時間をありがとうございます。在宅医療の現場を経験している中、都市部における高齢者の孤立は大きな課題となってきます。医師でもある古川先生に国会議員のお立場から、この問題をどうしていけばいいのかお聞きしたいと思います。
古川 俊治 氏と対談01 今までの制度は、高齢者の孤立や無縁社会という世の中を想定していませんでした。将来を見据えた対応が必要ということで、国会議員は超党派でさまざまに議論を進めています。
政治の責任としては、社会保障財源をしっかり安定させることが急務となっており、消費税を含む抜本的税制改革が必要となります。
今注目されている議論の消費税10%というのは最低限の税率で、これまで通りの社会保障を進めていくには、17%〜18%となるでしょう。
財源には限度がありますから、より効率的に医療・介護・福祉を行う枠組みを作っていくことが課題となります。私の個人的見解としては、高齢化と同時に元気なお年寄りも増えていることから、年金の受給年齢を70歳に引き上げる施策があります。
「70歳現役社会」というポリシーで、これは自民党の政策にも入れております。「70歳現役社会」を実現するための一つとして、抗加齢医学の実践が望まれます。実現することで年金財政を抑えることができます。実際に多くの人が長生きして100歳までとなると、現状の年金制度を到底維持できません。
しかし、公的年金を5歳遅らせるとかなり違ってきます。ただ、70歳まで働くとなると、若い人の就職を圧迫しないような雇用問題を解決していかなければなりません。いずれにしても、自助が必要となり、次に共助、そして最後に公助という順番をはっきりさせて、自助と共助を中心としたシステムに組み替えていくことが必要だと考えます。
先生の医師としてのご経験が医療政策に反映されていると思いますが、議員になられる前と今とでは、病院や患者さんの動向で変化があるでしょうか。
医療の現場が変化していることはひしひしと実感します。私が議員になったのは4年前ですが、2010年の診療報酬改定で診療報酬が上がり、大学病院等の経営にはよい影響が出ています。
ただ開業医や中小病院は苦しい状態が続いています。私が議員になる前から今も続いているのは、医師不足です。安易に医師数を増やしてはいけませんが、調整していく必要があります。
一部のところで医師を抱え込んでいることと、診療所を開業しすぎていることで、中小病院に医師が集まりません。大病院はそれなりに充足してきています。医師としても大病院は安定しているという意識があるからでしょう。
そうした医師不足を解消していくための施策はあるのでしょうか。
古川 俊治 氏と対談02地域医療をきちんと整備していくために、医師会や大学医局のボランティアを望みたいと思います。国や自治体が主導して医師配置を決めていくというのでは、医師は耐え切れません。
医局のつながりや専門性での師弟関係などの人間関係の中で動くならいいけれども、全く知らないところへ国や自治体から行けと言われても、チーム医療を行ううえでぎくしゃくしますし、とうていやりきれないでしょう。
専門性の部分で、大学や学会が協力して構築していくことが望まれます。今までは、来年医局から交代要員がくるから1年我慢できる、あの先生がいるから給料は安いけれども2年間学んでみよう、こうしたことがあったのですが、それを壊してしまった卒後臨床研修制度は、見直す必要があります。
「医療過疎地」という言葉に象徴されるように、適正な医療を受けられない高齢者が増えることが予想されています。どのように救っていけばよいのでしょうか。
非常に難しい問題で、これからの社会のあり方に対する考え方如何です。どれだけ格差を認めていくのか、つまり資本主義を貫いていくのか、旧ヨーロッパ型、北欧型に切り替えていくのかということです。国民は北欧型を望んでいるような傾向に見受けられます。
ただそのとき心配なのは、頑張る人たちがアメリカに逃げていくのではないかということです。国会でも意見が分かれるところで、私は、日本の生活水準を落とさないためにも、ある程度資本主義を伸ばし、社会保障費を最低限確保する必要があると考えています。
企業も人材も海外へ流出するという危うい状況が進んでいますが、頑張る人はそれに見合う収入を得られ、底辺はある程度十分に支えられる国づくりをしたいと思っています。
それが自助、共助、最後に公助がある、という自民党の考え方です。民主党は、菅首相が「最少不幸社会」と言っていますが、自民党は「最大幸福社会」を求めており、この違いが、両党の考え方を象徴しています。
国が全て行うというのは限界があり、社会の仕組みづくりへの民間の期待が高まっています。
民間でできないところは自治体等がやらなければなりませんが、それをどこまで行うかという問題です。たとえば郵便局サービスで、すべてのサービス機能が本当にある必要があるかという問題です。
郵便貯金はインターネットを使えばできるわけですから、全国津々浦々に郵便貯金サービス機能を設置する必要があるでしょうか。
医療機関も同様で、アクセスの良いところにすべての機能があったほうがいいのは当然ですが、人口が少ないのに大病院が近くに必要だというのは、自治体でも民間でも病院は経済的に成り立ちませんから、それを国民は理解することが大切です。
マスコミを筆頭に、国民は要求と自分の懐からのお金の拠出は両輪であるということを理解していただき、考えていただきたいと感じます。
古川 俊治 氏と対談03国民は医療に対してお金を払うことに慣れていませんよね。医療を受け、こんなに高いのという声を聞きますが、普通に民間のサービスを受けてもこうした声は出てきません。これからの医療として、古川先生が研究なさっている遠隔医療や在宅医療はどうなるでしょうか。
遠隔医療はこれからです。人的負担や回線費用などかなりかかりますから、保険点数をつけていかないと、誰もやりたがりません。保険の上乗せがあればかなり普及すると思います。
在宅医療については、意思を持ってやってくれる人が増えれば支えることができるだろうと思います。しかし、これだけ高齢化しているのに医療費の対GDP比が低い状況でやっており、燃え尽きてしまう医師が出てくるかもしれません。
行政は在宅医療を推進しますが、病院から出せば安く済むという発想です。介護もなるべく在宅で24時間というふうになっていますが、そうしないと社会保障費がもたないからです。
本音で言えば、家族は在宅より施設のほうが楽なはず。本音で議論しないと、きれいごとですむ話ではありません。それから、医療とお金について、コストとリスクの2点を国民にはきちんと理解してほしいと思います。
たとえばB型肝炎訴訟は和解の方向にあります。薬害C型肝炎のときもそうでしたが、国に本当に責任があるかどうかわからないところまで救済するのかどうかということです。
法的責任として、そのとき分かっていたではないかという話はいくらでも後付けできてしまいます。医療のリスクをどこまでも救済していったら財政は破綻します。C型肝炎救済は国に法的責任はないが救済しましょうという超法規的措置で行いました。
B型肝炎救済では約3兆円が必要です。
このお金はすべて国民の負担なのです。さらに輸血後肝炎救済という話になると、そんな額ではすみません。こうしたリスクを国民にどう啓蒙していくのかというのが課題です。
古川 俊治 氏と対談04私たちは都会の高齢者の孤立に対して、まず在宅医療を中心とした民間コンソーシアムによる問題解決を試みています。アドバイスがありましたらお願いいたします。
「理念を忘れたところに医療はなし」ですから、めげずに頑張ってほしいと思います。この地域の住民は自分が責任を持って診ていくという医師を応援したいですね。
理念を持った医師が地域にいるということは心強いです。国会議員としては、理念に基づく実質ある医療に対して、適正な報酬を支払うようにしていきたいと考えます。やっただけ報われるという基盤をつくっていきたいですね。
本日は貴重なお話をありがとうございました。心強い限りです。

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武藤 真祐(聞き手)
武藤 真祐|医療法人社団鉄祐会 祐ホームクリニック 理事長 詳しく知る

1990年 開成高校卒業
1996年 東京大学医学部卒業
2002年 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了
2010年 祐ホームクリニック開設
2011年 祐ホームクリニック石巻開設
内閣官房高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 医療分野の取組みに関するタスクフォース構成員
みやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会 システム構築委員会 委員
石巻市医療・介護・福祉・くらしワーキンググループ委員
経済産業省地域新成長産業創出促進事業ソーシャルビジネス推進研究会委員等公職を歴任

古川 俊治 氏と対談

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