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北城 恪太郎 氏(日本アイ・ビー・エム株式会社最高顧問)「官から民へ リーダーの役割」

北城 恪太郎 氏北城 恪太郎 氏|プロフィール(2011年3月現在)詳しく知る

1967年 慶応義塾大学工学部卒業
1967年 日本・アイ・ビー・エム株式会社入社
2003年 同社代表取締役会長就任
2007年 日本アイ・ビー・エム株式会社最高顧問就任
2010年 学校法人国際基督教大学理事長就任

対談内容

高齢先進国である日本において、私たちは、特に都市部高齢者の孤立に危機感を持ち、在宅医療を中心とした産学官民のコンソーシアム形成を試みています。今後サービス提供が官から民へと移行する必要がある状況で、医療・介護のあり方、そこでのリーダーのあり方につて、ビジネス視点から北城恪太郎氏(日本アイ・ビー・エム株式会社最高顧問)にお話を伺いました。


本日は貴重なお時間をありがとうございます。私たちは都市部の高齢者の孤立を解決していくことを模索しています。今後の社会保障のあり方での公共と民間の連携や社会イノベーションについて、北城さんのお考えを伺いたいと思います。
北城 恪太郎氏と対談01 急速な少子高齢社会の日本では、医療・介護など高齢者への対応を全て公共が担うのは難しいと言えます。財源的な問題もありますが、国や自治体という組織は、経済活動において効率的ではなく、創意工夫がしにくいからです。
一方、企業は経済活動をするうえで最も効果的な組織です。人々の生活を豊かにする経済活動の重要な担い手です医療や介護もできるだけ民間の知恵を活用して、よりよいサービスを効果的・効率的に提供していくことが大事となります。
介護で言えば、介護施設も必要ですが、人によっては施設を好まず、住み慣れた自宅を希望することも多くありますから、在宅でコストをかけずに効果的に介護をすることが求められます。きめ細かく一人ひとりのニーズに対応したサービスを効率的に提供するのが民間の役割で、民間による新しい介護サービスの仕組みができれば、少子高齢社会の先進モデルとなり、他の国々にも大変参考となるでしょう。もちろん、在宅介護だけでなく在宅医療との組み合わせが重要になり、武藤さんの活動は素晴らしいと思っています。
在宅での医療と介護はあまり差がありません。そして実際に在宅医療を始めて気づいたのは、高齢者の生活を支える仕組みが重要だということです。私はこれを、民の知恵と工夫を結集して行いたいと考えています。
生活支援と医療・介護を組み合わせて提供できる仕組みがあれば、受け手にとっては非常によいことです。行政ではそうした連携での対応は難しいので、民間の創意工夫が生きてきます。
ビジネスとして提供するものは、社会の役に立つから多くの方々に使っていただけるのですから、医療もビジネスとして認識することは自然でしょう。もちろんビジネスで対応できない分野は、公的な支援が必要ですが。企業が社会のために存在しているのと同様、医療も社会のために存在しているのであれば、ビジネスという発想があってもいいと思います。
GDPの2倍ほど借金を抱える日本で、子どもや孫の世代にツケを回さないためには、政府に依存して行政が全てのサービスを行うことができないわけで、民間がサービスを担う具体的策が必要となっています。
医療を受ける側が医療はほとんどタダという意識があり、コスト意識が欠落しています。国民もある一定の覚悟が必要ではないかと思います。
北城 恪太郎氏と対談02日本の国民皆保険制度は、素晴らしい制度だと思います。その制度の中で医療費が増大し財源問題が出ているとはいえ、日本の医療が維持できているのは、病院勤務医の使命感に基づいた過重労働とも言える働きです。
しかし、そこに依存していては、国民皆保険制度は長続きしません。勤務医が健康を維持しつつ医療を提供できるような医療体制整備が重要です。それにはお金がかかりますが、お金のかかることへの歯止めは、これまでは診療報酬を抑え、薬価を切り下げるという手段で行ってきました。
しかし、このまま続けることには無理があります。持続可能な財政を作るには、なぜ国の財政が厳しいのか、どういう制度にしなければ維持できないのか、国民に伝える義務が政府や政治家にはあると思います。無駄をなくすことは必要ですが、優先順位をどのように付けて歳出を抑えるかが重要です。
しかし日本全体で優先順位を決めると、国民にはその負担と得られる効果の関係が良くわかりません。何がよくて、優先すべきかの判断がつきません。地方分権をして自治体主体で優先順位を決めると、負担と効果の関係が住民には理解できる範囲となります。
先日の名古屋の選挙結果も、地方自治への流れですね。政治や企業の世界も、社会イノベーションの世界でも、結局、リーダー論に行きつきます。
リーダーが効果的に活躍するには、2つの要素があります。優れたリーダーを選任する仕組みと、リーダーへの権限付与です。いくら優秀な人でも、この2つがないと効果的に仕事ができず、結果を出すのに時間がかかります。
リーダーとして大切な役割は、ビジョンと目標設定、実現するための具体策の策定、組織で働く人への動機付けです。もちろん、熱意や行動力、決断力を持ち、そのうえで誠実さがなければなりません。武藤さんが小さい組織から始めて、徐々に大きくなっていくとき、組織の構成員が100人ぐらいまでは1人のリーダーで全てを取り仕切れますが、100人を超えると質的な変化が起こるので1人ではなかなか運営できません。
全てを自分1人で仕切るのではなく、権限を委譲することが大切です。全て任せて関与しない放任とは違い、委譲とは、進んでいる状況をよく見て、問題が発生したときは自分も関与して解決する責任を持つということです。
北城 恪太郎 氏と対談03 私は医師として医療現場を経験し、マッキンゼーでより広く社会構造、経済活動を見ました。そして、社会から置き去りにされた人を救いたいという小さな頃から持っていた思いの実現へ、とにかく1人でも始めてみようということで現在のクリニックをスタートしました。ビジョンとは教えられて作ることができるものなのでしょうか。
自分のやりたいことを相手にわかるように言葉にしたものがビジョンです。従ってビジョンは自ら考えぬいて作るものです。ビジョンがあれば、何年か後に達成すべき目標も作れます。そのための具体的策を決めるのもリーダーです。
社会イノベーターに限らずアントレプレナー(起業家)は、今までの延長ではない新しい考え方で、社会にとっての価値を作り出そうとするリーダーです。しかし日本ではアメリカのように、起業への挑戦を素晴らしいと褒め称え、成功を喜ぶという価値観がほとんどありません。
社会の仕組みとしても、一度挑戦して失敗したら次に挑戦できないというのでは、新たな挑戦をする人が出にくいと言えます。そこを支えるために、2008年にはエンジェル税制が大幅に拡充されました。
また起業支援としては、社会的に信用のある人が社外取締役となり、NPOであれば理事になって、信用を高めることもあります。
また、私は政府の「新しい公共」推進会議の委員として、NPOが寄付税制の優遇のある公益認定を受けるハードルを低くしようという主張をしています。それを「国民による事業仕分け」と名づけて、NPOの支援につなげたいと思っています。
ソーシャルベンチャーやソーシャルビジネスの概念が広がりつつありますが、なかなかビジネスとして成立していません。その人たちをサポートする仕組みについてはいかがでしょうか。
社会の問題を解決するために持続可能な形で行う仕組みは、企業という形態と、企業的な形ではなかなか難しいところはNPOの形態となるでしょう。
先ほど述べたように、企業に対してはエンジェル税制、NPOに対しては、これから実現させたい公益認定の受けやすさなどで支援しますが、他にもプロボノ活動の活用による支援もあります。企業で働くさまざまな専門的な能力を持った人が、その技術・経験をNPOで生かして支援するというものです。それを活用しながら、少しずつ自分のところで人材を育成していくこともできるでしょう。
北城 恪太郎氏と対談04医師の世界では、いわゆる変革型リーダーが少ないと言われています。国民の健康を担う医師や医療界へのメッセージをお願いします。
医療の現場が大変なことになっていることを国民に伝えることが必要です。マスコミも医師不足や勤務医の過重労働など報道していますが、健全に医療現場が持続できる仕組みの構築や財政問題など、たえず伝えていかなければなりません。
大切なことは、本当に努力している医師、優れた成果を出す医師に、より活躍の場があり、よい処遇を提供していく仕組みを作ることです。病院長にしても、必ずしも医師ではなく管理能力のある人が就くという発想も必要かもしれません。
もちろん医療を提供する幹部としての医師は必要です。まず何よりも、医師でなければできないことに専念できる仕組みにすることが急務で、そのためには医療従事者全体の充実が必要となってきます。
最後に、私は、これからの日本の医療は、救急と在宅の2本柱を拡充する仕組みにするべきだと思っています。救急は絶対に必要です。裾野広くかかりつけ医がしっかり診て、本当に必要があるときと判断し高機能の病院に紹介して、専門医に診てもらうという流れです。在宅医療の底上げがないと、病院勤務医も楽になりません。そこをやっていこうとする私たちへのアドバイスがありましたらお願いいたします。
在宅医療は、一人ひとりの患者さんにとって、自分の望む生活スタイル、医療や介護を受ける希望、QOLを実現する大切な手段だと思います。武藤さんの活動は、その選ぶ手段を提供する非常に重要な仕事で、高齢化社会を迎えると大きな役割を担います。
これを効果的、効率的、持続的に提供できるようになると、世界の新しい事例になると思います。社会の問題を解決する日本初のモデルとなっていただきたいので、ご活躍を期待しています。
本日は貴重なお話をありがとうございました。リーダーの役割を肝に銘じながら、目標の実現へ邁進していきたいと思います。今後ともアドバイスをお願いいたします。

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武藤 真祐(聞き手)
武藤 真祐|医療法人社団鉄祐会 祐ホームクリニック 理事長 詳しく知る

1990年 開成高校卒業
1996年 東京大学医学部卒業
2002年 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了
2010年 祐ホームクリニック開設
2011年 祐ホームクリニック石巻開設
内閣官房高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 医療分野の取組みに関するタスクフォース構成員
みやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会 システム構築委員会 委員
石巻市医療・介護・福祉・くらしワーキンググループ委員
経済産業省地域新成長産業創出促進事業ソーシャルビジネス推進研究会委員等公職を歴任

北城 恪太郎氏と対談

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