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野田 智義 氏(特定非営利活動法人アイ・エス・エル理事長)「社会を変革する力」

野田智義 氏野田 智義 氏|プロフィール(2011年3月現在)詳しく知る

1983年 東京大学法学部卒。日本興業銀行入行。マサチューセッツ工科大学スローンスクール(MIT)よりMBA、ハーバード大学より経営博士号(経営政策)取得。ハーバード大学ジョン・F・ケネディ行政大学院特別生、ハーバード大学ビジネススクール研究員、ロンドン大学ビジネススクール助教授、インシアード経営大学院(フランス、シンガポール)助教授を経て、2001年より現職。

対談内容

私たちは、都市部高齢者の孤立という社会課題の解決に取り組んでいます。多くの社会イノベーター支援をしている野田智義氏(特定非営利活動法人アイ・エス・エル理事長)より、社会変革について、ご自身の活動とともに語っていただきました。


本日は貴重なお時間をありがとうございます。在宅医療専門クリニックを設立して1年余り、何とかここまで来ました。社会イノベーター公志園にてグランプリをいただき、私たちの活動や思いを伝えることができ、感謝しております。野田さんにはまずこの公志園についてのお話をお聞きしたいと思います。
野田智義 氏と対談01 経済社会の課題を従来にないアプローチで解決しようと挑戦している社会イノベーターたちが全国から集まり、支援者、観客が一体となって日本と世界の未来を創り出す場が社会イノベーター公志園です。北海道から九州まで、ビジネス・市民・大学・行政など様々なセクターの方々と協働して、「社会の公器」として構築したものです。
日本を変革するポテンシャルをもった取り組みだと自負しているのですが、課題もあります。
例えば、社会イノベーターに「支援されることが当たり前」という感覚が芽生えてしまうことです。支援と自立はコインの表裏の関係で、自立があって支援があるという前提があることを出発点におく必要があると思っています。社会イノベーターは、船の底一枚下は奈落の底で、そこに落ちるかどうかギリギリのところで活動します。
すべての責任を自分が負っているのです。武藤さんが医師として在宅医療だけをやっている間は、そういったリスクはないでしょう。しかし、高齢先進国モデルにチャレンジするとき、リスクは大きくなっていくと思います。武藤さんにとっての最大のリスクは、社会的認知が広がり、社会的信用が増してきた際の、レピュテーションリスクが一番大きいと思います。
私が公志園で学んだことは「生き様を伝える力」です。当初は「どうしたら自分たちを理解してくれるだろうか」と、コンセプトをエッセンスとして簡潔に伝えることに努めていました。
人によってコンセプトの「切り出し方」が異なることも感じ、コンセプトの何を切り出し、何を切り捨てるのが、この人に伝わるのかを考えていました。しかし今では、それは少し違うのではないかと思い始めています。
確かに切り出し方は難しいですね。それを、相手の社会背景や関心事といったセグメントに合わせて変え始めると、後で支離滅裂になります。従い、マーケティングとしてのコミュニケーションの切り出し方ではなく、氷山でたとえると、表面に出ている部分のどこから切り出し、それを突破口として水面下にある核となるものがを実現できるのかという切り出し方こそ重要です。
そうでなければ、あるところまではいきますが、最終的に矛盾を抱えて、最後の本丸には届きません。私自身も社会イノベーターみたいなものですが、同じ悩みを経験しました。最初は、無意識にせよ、相手によってメッセージを小手先に変えていた部分があります。
創業して4年目からは、正々堂々と理念とビジョンを掲げ、貫くこととしました。。企業に対して「企業の人材を育てる」ではなく、「日本と人類のためのリーダーを作るための世界最高の触媒を提供する」と伝え、理解いただいています。
このたび野田さんはアイ・エス・エル20年の計を立てるということですが、具体的にはどういうことなのでしょうか。
野田智義 氏と対談02 日本を再生するための自立的な手法として、アイ・エス・エルを立ち上げました。経営者教育は、自分と同年代の目を輝かせたいという思いからの目的でもありますが、同時に、活動を財政面で自立的に支える手段でもあります。
人生をかけて活動するのですから、自分にとってのwill(したいこと)、can(できること)、must(やらねばならぬこと)の三位一体が実現できるのが理想ですが、時代の変化や自分の身の丈によってもどんどん変わっていきます。
世界情勢、日本の立ち位置、自分の人生のステージが変わるなか、12年前の創業時のそれと、今の3つ(will、can、must)とはかなり違っているのです。武藤先生も同じだと思いますが、在宅医療に飛び込まれたときと今、そして5年後では大きく変わるのではないでしょうか。しかし変わらないところがあります。自分は何のために生まれてきたのかといった魂が根っこの部分にあり、それが重要だからです。
この魂がなければ、全てが安易な手段に終わってしまいます。日本を世界に誇りうる国に再生する第一弾ロケットとして、アイ・エス・エルは全人格の経営者教育や社会イノベーターの育成という事業を行ってきました。でもその根っこにあるのは、社会のすべての人々がリーダーであり、自立した個人が自らの手で未来を切り拓きうるというものです。第一段で便宜的に掲げてきた「経営」「ビジネス」「社会」といった区分を超え、「社会全体のイノベーションを実現する全人格リーダーを育てる」という本来の根っこを追求することが、20年の計でしょうか。
但し、財政破綻や資源の高騰などで、5年以内に日本が危機に陥いる可能性は大変高いと思いますから、5年の計であるかもしれません。日本が世界に先駆けて人類に必要とされる本当の意味での社会イノベーションを実現できるかは、ハードルが高い挑戦でしょう。しかし少なくとも、お上への依存が過度で、組織への帰属意識が強く、個が自立していない日本においては、挑まなくてはいけない挑戦だと確信しています。
個が力を発揮できるのは民主主義でしょうか。私は、現代民主主義にポピュリズムという負の遺産を感じ、社会変革のダイナミズムを産む土壌がどうあるべきか、今もなお答えを出せずにいます。
また、個と、その集団である組織の関係を背景に、リーダーとは、どのような土壌から、どのように生まれてくるのでしょうか。
中国とインドの経済発展の速度の違いが象徴的な事例です。中国の経済成長スピードがなぜ早いかと言うと、開発独裁主義だからです。インドは民主主義の代償を払っているといえます。 私は「個が自らの意思で、大きなものに対する責任を負うというというところから、真のリーダーが生まれる」と信じています。
個が世界を救うと言う時、衆愚の一人である個が救うのではありません。自立した個人の集団の土壌から出てくる「個」が救う。そしてその個は、決して「独裁者」ではなく、「大きなものに対する責任を自ら負う」という決意を持ったリーダーです。自立した個を前提としない依存した民主主義は、ある意味では、独裁主義より性質が悪いと思います。
野田智義 氏と対談03 私の先ほどの問いでは、「リーダーが出てくる土壌」と「リーダーが力を発揮できる土壌」の2つの問いかけをさせていただきました。今、野田さんからは前者について示していただきました。私は後者が気になります。
例えばこれまで、厳しい官僚制度の中で多くの優秀なリーダーが生まれました。イノベーティブなリーダーではありませんが、その時代に求められたリーダーであったと思います。
「鶏と卵」の議論ですね。リーダーは時代が作るものです。日本は転換期が20年も続いているのに、真のリーダーが生まれてきませんし、リーダーとおぼしき人が改革もできない状態です。ここには、個人の問題と構造の問題の両方があると言えます。その相互作用でどこにも抜け出せず、もがいているのが日本の姿です。
それでも、私は、「リーダーが力を発揮できる土壌」を創りうる変革型リーダーの存在こそが、この相互作用を断つ道であるとして、リーダー育成に取り組んできましたが、日本国債のデフォルト、東アジアでの国際安全保障上の危機など、時代がきな臭くなるくらいの危機感が訪れないと日本は動かないないというのが現実的かもしれませんが、その際も、起点となるのはすべて個の力だと思います。そして、その起点となる自立した個には、自分の人生を完全燃焼するぐらいに生きるという生き方が求められるのではないでしょうか。
「多くの人を救う」、これがきっと私に燃焼感を与えると思います。10年後もこの思いを持ち続けていかなければいけないと思います。
それは誰かに言われるというものではなく、武藤さんが自分の生き様として決めることです。自分のために自分で言い続けられるかどうかだけが重要だと思います。
野田智義 氏と対談04 人助けという本当に自分がやりたいことは変わらないでしょうが、変化が進化だと思っているので、これからも変化し進化していきたいと思います。
しかしそれがどの方向に行くのか自分もまだよくわかっていません。野田さんから常に厳しいことを言われ続けながら、進んでいきたいと思います。
武藤さんのいる医療現場は、人を助けることの価値判断が究極に問われる場です。助けられる人、助けられない人がいて、人を助けたいという言葉とどう両立させるのか。それを問うことも、武藤さんの今後の成長には必要ではないでしょうか。
在宅医療を中心とした高齢社会コミュニティの仕組みを作ることで、多くの先生方の先に、救われる人々が増える、それしかできません。量的価値もさることながら、その質的価値も追求していきます。
「どんな人を」「どのくらいの数」救えるかは、正直わかりません。自分のできる限りを尽くすことだけです。私たちが救える人とそうでない人の命の差があるかと問われても、わからないというのが正直なところです。
助けられないという釈然としない気持ち。忸怩たる自問自答を繰り返すなかでの一種の割り切りにも似た強さがないと、祐ホームクリニックが真の意味でパブリックな存在にならないのではないかと感じるのですが、どうでしょう。
現実にはまだ1%の人も助けられてはいませんが、医療だけでは救えないものがあるので生活を助けていこうということで高齢先進国モデルを進めていきたいと思っているのです。
高齢先進国モデルという言葉はとても時代の要請にあったものなので、多くの人が武藤さんの周囲には集まると思います。武藤さんの本当のチャレンジは、どこまでビジネスモデルでやるのか、どこまで大義を守ってやるのか、誰と、どういう動機でどこまで組むのかなどを決める過程にああると思うのです。
そこで問われるのは、武藤さんの生き方そのものです。ある人は離れていくかもしれませんし、新しい出会いもあります。集散離脱の中で、活動が形づくられていきますが、それを決めるのは武藤さんの価値観です。
矛盾と絶えず向き合いながらも、最後の最後には武藤さんの原点にあるものをどうぞ大切にしてください。これからも応援していきます。
大変ありがたいアドバイスです。本日は貴重なご意見をありがとうございました。今後とも長くお付き合いいただきたいと思います。

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武藤 真祐(聞き手)
武藤 真祐|医療法人社団鉄祐会 祐ホームクリニック 理事長 詳しく知る

1990年 開成高校卒業
1996年 東京大学医学部卒業
2002年 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了
2010年 祐ホームクリニック開設
2011年 祐ホームクリニック石巻開設
内閣官房高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 医療分野の取組みに関するタスクフォース構成員
みやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会 システム構築委員会 委員
石巻市医療・介護・福祉・くらしワーキンググループ委員
経済産業省地域新成長産業創出促進事業ソーシャルビジネス推進研究会委員等公職を歴任

野田智義 氏と対談

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