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笹森 清 氏(内閣特別顧問)「皆が支え合う社会」

笹森 清 氏笹森 清 氏|プロフィール(2011年4月現在)詳しく知る

1989年 東京電力労働組合委員長
1993年 全国電力関連産業労働組合総連合会長
2001年 日本労働組合総連合会会長
2005年 労働者福祉中央協議会 会長専任
2007年 内閣特別顧問

対談内容

日本は、世界から尊敬され評価される「長寿大国」となるべく少子高齢化を乗り切り、安心で豊かな社会を構築しなければなりません。「皆が支え合う社会」を提唱し、力強く活動を進めておられる笹森清氏(内閣特別顧問)に、高齢社会を支える社会保障制度、とりわけ高齢社会対策について語っていただきました。


本日は貴重なお時間をありがとうございます。私たちは都市部高齢者の孤立に問題意識を持ち、医療のみならず、高齢者の安心の生活を実現する支え合いの地域コミュニティ「高齢先進国モデル」の構築を図っています。笹森さんがお考えになる支え合う社会の在り方について、お伺いしたいと思います。
笹森 清 氏と対談01 まず、社会イノベーター公志園でトップをとった武藤先生の活動に敬意を表したいと思います。  私はさまざまな活動をとおして、社会に実効ある活動をしていくには、2つのことが重要だと強調しています。1つは異質の協力です。
同質の協力は足し算にしかなりませんが、異質の協力は掛け算になります。今まで、労働運動は労働運動だけの閉鎖的な世界の中で活動してきました。地域運動や企業活動、その他いろいろなジャンルでも同様で、横に開いてどう伝えるかということがなされてきませんでした。
「異質の協力」については、3つの実証があります。私が連合会長を退任した頃、いわゆる「クレサラ問題」で高金利多重債務者に自殺者が多く出ました。現日弁連会長の宇都宮健児氏たち市民団体と主婦連により法律是正運動が行われていましたが、3年かけて集めた署名は27万名分でした。
その後、私のところへ連携の話が来、あっという間に300万名分となりました。それが画期的な法律改正に結び付いたのです。さらに、ローンを組んで騙されるお年寄りが非常に多かった問題で、日弁連、司法書士会、主婦連などが集まり、繰り返し街頭演説活動を行いました。
政治家がいなかったことが逆に効果的だったのでしょうか、聴衆は非常に関心を持ってくれました。そしてこれも画期的な法律大改定になりました。さらに、日比谷公園での派遣村村長をやった内閣府参与の湯浅誠氏、派遣村の名誉村長の日弁連会長宇都宮健児氏、そして私とで「反貧困全国ネットワーク」を作りました。
世の中は格差社会(現実は貧困社会というべきでしょう)を産み出してしまいました。昨年は、賀川豊彦さんが貧困撲滅運動を始めて100周年ということで、キャンペーンをはり、私も全国を回りました。
異質の協力に続く2つめの大切なことは、声をあげて行動することにより世論が動き、世論が動くと政治も行政も無視できないということです。その典型がテント村です。日比谷公園ではキャパシティを超え、収容できなくなり、世界で一番硬膜技術を持った民間企業に頼み、テントの準備をした上で政府に掛け合いました。
すると、目の前の厚生労働省の講堂を空けるということになりました。世論が政治を動かしたのです。枠を取り除いていろいろな人たちがつながったことで、パワーと圧力を持つことが実証されました。
少子高齢社会の課題も、そうした異質の協力が必要ということですね。
笹森 清 氏と対談04 今はさらに広げようとしており、日本社会がすぐに解決しなければならない少子高齢、しかも超高齢社会への対応です。戦後60年で人口が5,500万人増え、団塊世代を中心とする昭和21年から昭和26年に約1,400万人が生まれています。その世代が全部60歳に突入し、一番上は65歳を超えてきます。
大きな層が高齢社会に入ってきますが、日本のシステムは対応できるように変えられているのかという課題です。国民皆保険、国民皆年金は世界に誇れる制度で、これまで制度を享受してきましたが、このままなら高齢社会では破綻します。
支える世代と支えられる世代の分母と分子の関係が逆になり、人生90年時代では、支給開始年齢を引き上げても20年、30年支給しなければならない長寿社会です。ところが、人類の夢である長寿が可能となった社会なのに、長生きが悪いイメージになっています。
そうではなく、長生きして老後を楽しく夫婦で過ごせる、高齢者同士で過ごせる、若い人も加わる、そうした社会がなぜできないのでしょうか。もともと日本社会は、家族愛の絆、地域社会の絆があり、そして近代国家になって職場の絆が生まれ、今、これらが全部崩れてしまったからです。
そこで、自助、公助、共助、互助という地縁社会における助け合いをどう作っていくのかということになります。長寿社会での少子高齢化への対策で、高齢者が安心でき、安心して子育てする環境をどう作っていくのかも大きな課題です。
そこで、社会保障と税の一体改革が重要になっています。
笹森 清 氏と対談02 政府が行っている社会保障制度と税制の一体改革をするための集中検討会議が、きわめて大きな役割を果たします。この会議で出た結論をいかに法制化するかが重要で、この会議は、その責務をも担っています。
小泉内閣のとき年金改革を行いましたが、法律の附則で税制と一体に見直しをして抜本改革を検討すると書かれています。しかし、1度もやっていません。今回の会議では、少子高齢社会の問題点として、年金・医療・介護に加えて、格差社会の是正、子育て対策を入れた5本柱について専門家の意見を聞き、提言をします。
大部分の見解が一致しています。しかし難しいのは、社会保障制度の姿を見せるということです。今までは税制だけを示してきました。そうではなく、社会保障制度を示した上で、年金・医療・介護等に対するシェアをどうするかという姿を見せ、給付と負担についての明確な方針を示す必要があります。
当然、財源の問題があり、税金をどう使うのか、保険制度を残すのか残さないのか、ミックスにするのかという議論となります。今までは、税と社会保障の一体的抜本改革と言っていたのを、今度は社会保障制度と税制の一体化での抜本改革と言っており、かなり意味が違います。
政党は関係なく、政治の責任として、国民生活の一番基本になる命、老後の生活保証について、もはやお蔵入りは許されません。 その一方で、高齢者の問題に向き合う地域や団体があることは心強い限りです。
地域コミュニティ、地域社会の絆の復活という呼びかけは、それぞれの業種団体、NPOの市民運動などが集まり、行政と一体となっていく仕組みに作り替えなければなりません。ただそれば47都道府県一律でいいかというと、疑問があります。
それに対して問題提起をしているのが、武藤先生が取り組んでおられる都市部高齢者の孤立です。地域社会、日本社会の一番の問題解決が、地域の中で萌芽し始めています。政治の責任としては、こうしたNPOや市民団体に大集合をかけ、さまざまな活動をしている人たちをミックスすることです。
そこには、素晴らしいネットワークができます。そして、現場で従事しているその人たちをサポートすることです。特に後者の視点は現在抜けています。この2つこそが政治の責任と強く認識すべきでしょう。
そうしたとき、民間の役割をクローズアップするとどうなるのでしょうか。
お上依存を改めることです。これからは、地域の人たちの異質の協力が必要となってきます。その上に地域住民の参加があります。参加の仕方には2つあり、行政への参加はシステムに組み込まれるので実効が薄く、「雇用されない働き方」、つまりNPO等が新しい公共の担い手の大きな柱になるでしょう。
自分で起業しようとしても成功例は少ないので、共同でやるという「創職」が求められます。地方自治体の手に余る、雇用の問題、医療・介護の問題など、その受け皿は「新しい公共」となりうるのではないでしょうか。
政治は7年間、国民が理解していないと言ってすべてお蔵入りにしてしまったのですが、国民は消費税を上げる必要性を理解しています。しかし、今のようなやり方では納得しません。国民をどう納得させるかが重要になります。
確かに、不幸である人を救っているという感覚はありません。置かれた環境の中でいかに幸せにしてあげられるかという思いです。
不幸を基準とする社会で子どもたちを育てたくはないですね。私は、民主主義は絶対で揺るがないものというアメリカで育ちましたが、日本を見ていると、民主主義の前提が崩れていると思います。
民主主義が政治システムとして機能するのは、若い世代が多く、かつ未来志向があるところです。日本は、お金を持つ高年齢層の選挙票が多く、現状維持を望む人が多いのではないでしょうか。
この状況で民主主義を実行し続けると、今お金を使って維持して、後世にツケを回す政策につながってしまいます。現役世代が後世のことも考えて投票行動をしないと、この構造は変わりません。
笹森 清 氏と対談03 医療の世界では、インフォームド・コンセントといっても、患者さんに説明して理解してもらうことに留まっています。しかし患者さんは、納得したいと思っています。
結果がどうであれ、ご本人やご家族が納得したものであれば、受け入れていただけます。在宅医療で、それぞれの家の環境や状況の中で最適化していくには、納得していただかないと前には進みません。
武藤先生の場合、受けている方々と信頼関係があると思います。医療での納得は、医師と患者の信頼関係があるかどうかによります。
難しいのは、患者さん一人ひとりにカスタマイズしないと理解につながらないことです。すぐに理解される方ばかりではなく、わからないから先生決めてくださいと言う方もいます。そのとき、任せてください、一番いい方法でやりますからというコミュニケーションもあるのです。難しいけれど楽しい面もあり、医者冥利につきます。
最後に国際問題について触れてみます。戦後65年の政権の中で、今年1月20日に民間団体主催による外交演説を菅総理が初めて行いました。国内では評価されていないのが残念ですが、各国大使から高い評価を得ました。
日本政府が考える外交方針の基本として5つの柱を挙げ、高齢社会で日本が経験したノウハウを戦略として、アジアや世界に発信し、アジアにおける中心的存在になると演説したのです。しかし、政治が片付けなければならない問題を国会の中で議論しないのでは、前に進むことができません。
そうでしたか。私たちが構想する「高齢先進国モデル」で世界をリードしたいという思いに通じています。ただ民間やNPOがスタンドアローンでやろうとしても、倒れてしまいます。そこには行政や政治が関わり、その上で私たちが活動して共同でネットワークできるようにしていただきたいと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。

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武藤 真祐(聞き手)
武藤 真祐|医療法人社団鉄祐会 祐ホームクリニック 理事長 詳しく知る

1990年 開成高校卒業
1996年 東京大学医学部卒業
2002年 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了
2010年 祐ホームクリニック開設
2011年 祐ホームクリニック石巻開設
内閣官房高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 医療分野の取組みに関するタスクフォース構成員
みやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会 システム構築委員会 委員
石巻市医療・介護・福祉・くらしワーキンググループ委員
経済産業省地域新成長産業創出促進事業ソーシャルビジネス推進研究会委員等公職を歴任

笹森 清 氏と対談

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