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古川 元久 氏 (元内閣官房副長官) 「税と社会保障の在り方」

古川 元久古川 元久氏|プロフィール(2011年6月現在)詳しく知る

1988年 東京大学法学部卒業
1988年 大蔵省入省
1996年 衆議院選挙初当選
2010年 内閣官房副長官就任(菅内閣)
2011年 民主党代表代行補佐

対談内容

東日本大震災は多大な被害をもたらしました。これから復興の時期がきたとき、新たな街づくり、システムづくりが期待されます。日本の高齢者対策はますます急務です。そこで、衆議院議員の古川元久氏(元内閣官房副長官)に、日本における新しい社会保障の在り方について語っていただきました。


本日は貴重なお時間をありがとうございます。私たちは企業とコンソーシアムを組み、「高齢先進国モデル構想」に取り組んでいます。特に都市部高齢者の孤独を課題ととらえ、医療・介護だけでなく生活を支えていく複合的なサービスの仕組みを検討しています。今年夏くらいからは、実証実験を行っていく予定です。民間主体ですが、もちろん、行政との連携は不可欠です。当分野の官民連携について、古川さんのご意見をお聞かせください。
古川 元久 氏と対談01 高齢者に対して行政でケアできない部分はもちろんあり、この分野について、民間との連携は、今後一層重要度が増します。武藤さんの構想も民間に留まることなく、行政と連携すべきですし、それは民間にとっても意義は大きいことと思います。
NPO、企業、行政はそれぞれ立ち位置が異なりますが、社会的役割で一つにつながることはできます。たとえば、これまでの日本の社会保障は、終身雇用や福利厚生、退職後の面倒など、企業がかなりの部分を提供し、官の行う部分は小さかったとも言えます。
しかし、経済状況変化などにより、企業の担ってきた部分が非常に少なくなることで、社会の不安は大きくなりました。抜け落ちたところがフォローできていないことが、大きな問題です。もはや1企業でできませんから、行政、企業、NPOなどが、それぞれ少しずつ手を差し伸べる形を作る必要があります。
その意味で、武藤さんの取り組みは素晴らしいと思います。補助金だけではなく、民間と行政が協働できるといいですね。
補助金事業に「お金がなくなれば終わり」との事例は枚挙にいとまがありません。事業には、経済循環性が必要であり、サービスサスティナビリティの観点でも経済性は重要です。
大企業が関わり大きな循環で行うのも一つですが、地域の商店街などと連携し地域の絆の中で回していくというのも一つの姿でしょう。
そうですね。私も地域は大変大切だと考えています。地域の中での世代間交流のほか、私たちはソーシャルクーポンのような仕組みを考えています。具体的には、ボランティアなど活動したらクーポンがもらえ、それを商店街などで使えたり、医療費の一部にできたりという「善意の循環」を描けないかと思っています。
実証実験は、武藤さんの患者さんだけで広げていくのですか。
いえ、最初はマンションのような集合住宅から始め、地域の人たちに理解をいただいて広げたいと考えています。これをいくつか行うことで、地域ごとに合った方法が見つかるでしょうし、さらにカスタマイズしていくことができます。
区長に話をして、行政と一緒にやられたらいいと思いますよ。
本当にそうですね。貴重なアドバイスをありがとうございます。では次に、国家の社会保障戦略についてお聞きしたいと思います。一般的な理解として、財源不足の中、現行の社会保障の継続が危ぶまれています。
今のままの社会保障でいいとは考えてはいません。限られた財源の中で、本当に必要な人たちへ手を差し伸べられる社会保障の仕組みを作っていく必要があります。
例えば、低所得者への社会保障については、生活保護になれば公的保護を受けられますが、そこまで至らない課税最低限以下の低所得の人たちは、社会的ケアがほとんどありません。そのような方々がどのくらいの数いるのか、所得の分布はどうなのかといった状況が、実は全く把握できていません。
1億総中流と言われた時代から、課税最低限以下の低所得者層が増えた現代では、その人たちを支え上に押し上げていく社会保障の重点化が必要です。私たちは格差是正と言っていますが、それはもちろん、頑張って成功している人たちの足を引っ張るということではないということは、念のため申し上げます。
税と社会保障の抜本改革とは、比較的新しい議論なのでしょうか。
古川 元久 氏と対談02 これまで、税の議論は財務省、社会保障は厚生省と、役所の縦割りの弊害が顕著な分野でした。国民視点で言えば、税金でも保険料でも「払う」ことに代わりありませんが、両者は機能と役割に大きな違いがあります。
税金は基本的に所得の再配分であり自分が払った税金と自分に返ってくるものが1対1対応しません。保険料は基本的に負担と給付が連動します。これらの意味合いを勘案し、どう組み合わせて社会保障を構成するが重要です。
たとえば年金については、税金で賄われる最低保障年金と保険料で賄われる所得比例年金という2つで公的年金を再構成しようとしています。今の年金制度は、社会保険方式と言われますが、実際にはかなり税金が投入されていますので、払った分と返ってくる分との関係ではわかりにくいものとなっています。
今後は、保険料による所得比例年金額の低い人には、税金による最低保障年金を上乗せして、トータルで最低限の年金が保障できる仕組みにしようと考えています。こうした重点化を行うことで、本当に必要な人たちに手当ができる社会保障の仕組みができると考えています。
東京で始めるときには、ご協力できればと思います。
武藤先生は、同じ思いの方たちの点を線にしていきたいとおっしゃっていますが、私も同じことを思っています。日本中に点がたくさんあり、それをつないで面としての社会運動へ広げていきたいと考えています。
私たちは医療を切り口としています。行政がまずやらなければならないですが、細川さんがおっしゃるように、民間が実際にプレイヤーとして現場で一つひとつ形を作って いくことが大事です。
古川 元久 氏と対談04 まず地方から始め、少しずつ広がっていますが、もう少し活動している地区が増えないと行政には報告に行けません。初めから行政主導で予算をつけてとなると、なかなか うまくいきません。民間だから工夫・努力ができる部分が多く、民間がある程度軌道に乗ったら行政が絡むというのが一番いい形でしょう。
自助努力をして最後にどうしてもお金などの面で足りないときには、たとえわずかであっても行政が支援するということです。さらに、行政との関わりで大切なのは、行政の中に担当者を1人決めてもらい、その担当者へ報告する、いい情報を提供してもらう、そして広報誌などでPRしてもらうということです。
広報誌でのPRにはお金がかかりません。民間を中心に行政も巻き込んで、地域全体で共生共存できる明るい地域社会を作るために、私たちの挑戦はこれからも続きます。
医療分野で考えますと、日本は「皆保険制度」「フリーアクセス」により、基本的に誰でもどこでも医療が受けられる、という制度設計ですが、その維持は困難になることが予想されています。より小単位のコミュニティを作り、その中で効率的に医療を提供していくという考え方は、いよいよ具体的に推進することが必要ではないでしょうか。
コンパクトシティという考え方はありますね。東日本大震災でこれからの東北地方復興では、武藤さんのやられている「高齢先進国モデル構想」の中の一つのモデルや、私たちが議論している新しい社会保障の仕組みをモデル的に実行していくべきではないかと思います。
また、今回の大震災では、患者情報が流されてしまいました。カルテを電子化し蓄積しておけば、患者さんがどこに移動しても、継続・一貫した情報を基に継続的なケアを行うことができます。政府の情報戦略の中に位置づけた「どこでもMY病院構想」は、東北地方復興でモデル的に導入して、新しい形として示していくことが大事だと思います。
古川 元久 氏と対談03 国民ID制にともなう国民の権利として、個人情報の権利が主張されてきましたが、今は「継続したサービスを受ける権利」を保持することも重要な権利である、との視点が重視される潮流であると思います。その権利を守るために、ID制は必要だという発想への転換は、あるべき姿である思います。
社会保障に関してもう一つ大事な面があります。今までは、受益者が自ら申請しなければ受けられませんでした。たとえば年金は、年齢がきたら自動的にもらえるわけではなく、申請が必要です。
他の多く制度も同様です。しかし、武藤さんがケアしておられるような社会的弱者と言われる方々の中には、制度の存在を知らず、享受できるものを逃し、大変な苦労をされているケースもあると聞きます。
申告する人だけ助けるというのは、本来の社会保障の在り方ではありません。国民の視点に立ち、本当に手を差し伸べることが必要な人を見つけて、こちらからオファーしなければなりません。
そのためには、人々がどのような状況に置かれているのか、きちんと把握する必要があります。
私たちの患者さんで、介護保険の存在を知らない方もまだまだいらっしゃいます。大震災により、SNSなど新たな情報の流れが生まれ、広がり、社会インフラ化したとき、そこにアクセスできない方や存在そのものを知らない方との格差が急激に大きくなるのではないかと危惧します。そこを補填するものが必要です。
そういう意味でも、武藤さんのような方に頑張っていただく必要があると思います。
本日は貴重なお話をありがとうございました。またいろいろとご意見を伺いたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

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武藤 真祐(聞き手)
武藤 真祐|医療法人社団鉄祐会 祐ホームクリニック 理事長 詳しく知る

1990年 開成高校卒業
1996年 東京大学医学部卒業
2002年 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了
2010年 祐ホームクリニック開設
2011年 祐ホームクリニック石巻開設
内閣官房高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 医療分野の取組みに関するタスクフォース構成員
みやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会 システム構築委員会 委員
石巻市医療・介護・福祉・くらしワーキンググループ委員
経済産業省地域新成長産業創出促進事業ソーシャルビジネス推進研究会委員等公職を歴任

 古川 元久氏と対談

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