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小城 武彦 氏(丸善株式会社代表取締役社長)「日本を変える原動力」

小城 武彦 氏小城 武彦 氏|プロフィール(2011年4月現在)詳しく知る

1984年  東京大学法学部卒業
1984年  通商産業省(現経済産業省)入省
1991年  ブリンストン大学ウッドローウィルソン大学院卒業
2004年  カネボウ株式会社代表執行役社長
2007年  丸善株式会社代表取締役社長

対談内容

2010 年1月に在宅医療専門クリニックを設立して1年が経過し、多くの企業と連携して「高齢先進国モデル構想」準備会をスタートしました。そこで、企業再生に取り組み、日本型 経営を支持する小城武彦さんに、人材を活性化する日本型経営や企業が持つ公共的役割など、日本を変えていく原動力について語っていただきました。


本日は貴重なお時間をありがとうございます。小城さんは国家公務員からベンチャー企業の社員へ転身をされました。最初に、現在のキャリアの原点についてお聞かせくだ さい。
小城 武彦 氏と対談01 私は青臭い男です。大学を卒業するとき、明治維新や太平洋戦争などを経て先達が頑張り作り上げてきた日本という素晴らしい国を、次の時代に引き継いでいくのが自分の 役割だと考えました。そこで公務員になる決心をして、国土も狭く天然資源もない日本の進む道は産業であるとの認識から通産省に入省しました。
そして、35歳くらいのとき「なにかがおかしい」と感じるようになりました。それは大企業に入った友人たちが元気を失っていく姿を目の当たりにしたからです。どんどん元気を失い、口から出るのは「どうせ」 という言葉ばかり。昔の血気盛んな姿を失っていたのです。
バブル崩壊の傷も癒えていない94〜95 年ごろ、経済4団体はその解について、口を揃えて「これからはベンチャーだ」 と言っていました。私はベンチャー企業支援の政策立案する立場となり、シリコンバレーやボストンで勉強しながら政策を作りました。ベンチャー起業家たちはみな目が輝き、元 気でパワーあふれる人ばかりで、明らかにポテンシャルを感じます。そのパワーを日本で広げようと支援策を作りましたが、ほとんどうまくいきませんでした。
それはどこに原因があったのですか。
実は致命的な欠陥があることに気づきました。役所はリスクという言葉と無縁であるのに、リスクを負ってベンチャー企業を展開しようとする人を支援するのはおこがまし いということです。
しかも私は、そもそもお金を稼ぐということを経験しておらず、これではダメだと気づいたのです。役所を辞め、この経験をするしかないと決断しました。知 人の紹介で、TSUTAYAに1年間の契約平社員で入りました。35歳になってゼロから商売を学ぶことになったのです。
今でこそ省庁からコンサルティング企業やベンチャー企業を興す人もいますが、当時では大変珍しかったのではと思います。不安はありませんでしたか。
小城 武彦 氏と対談02 不安はほとんどありませんでした。私の原体験が理由だと思います。秘境に行くのが好きで、ニューギニア、アマゾンの奥地、ウイグル自治区の一番奥地などへ出かけ、自 分と違う暮らしをしている人々とコミュニケーションをとることに喜びを感じていました。
一番よかったのはニューギニアのダニ族です。2万5000 年の間ライフスタイルを変えてい ない崇高な民族です。彼らは伝統を持ち、自分の生活に誇りを持ち、幸せそうなのです。それを見て、仕事で失敗しても裸で生きていけると思うと少し気が楽になります。この原 体験があるからでしょう。
なるほど、そのようにして培われた思想があったのですか。
TSUTAYAに7年ほどいて、最後は認めていただき経営もやらせていただきました。ビジネスがある程度わかったので、次は本丸へ行こうと思いました。本丸とは、本当に優 秀な人材がいながら、何らかの理由で彼らのポテンシャルを発揮できていない会社です。
先輩でもある冨山和彦氏が代表を務めていた、企業の再生支援を行う株式会社産業再生機構に入りました。日本の資源は人材しかありません。その人材のポテンシャルを最大限に発揮できる社会にすることが私のテーマです。日本の大企業では社員が内向きになりがち です。
ルース・ベネディクトは著書『菊と刀』で、日本は恥の文化、西欧は罪の文化と述べています。根強くある恥の文化の副作用が内向きとして現れるのですが、日本のいいところを残しながら外向きにしたいというのが願望です。
小城 武彦 氏と対談03 私も東京大学第三内科に入り感じたのは、優秀なのに、その能力を社会のために発揮するというよりも、内側を見る人が多いということです。患者さんや社会のために医療 はあるべきでその姿勢に少し違和感がありました。
しかし、組織を中から変えるのは至難であり、そうであれば自らが違うマインドの人と話し、違うスキルを身に着けることで、 医療に風穴を開けたいと思い、マッキンゼーに出ました。
私は、産業再生機構の後、丸善株式会社へ外様として来ましたが、元気のない会社の共通項が魔の三文字「どうせ」という言葉を使うことです。1回しかない人生で何のために仕事しているのかを思い出させることが、人間の活性度を高めます。
絶えず語りかけるのは当然ですが、トップが実践しなければ理解されません。「丸善の価値観」「丸善ミッ ション」「行動規範」「丸善ビジョン」を掲げ、作った当初は、全営業所、全店舗を4回ほど回り、アルバイトも含めて全員に話しました。社内向けブログでも内容をかみ砕いて書き、会議の中でも言葉として使います。額に飾っているだけというのではダメで、日常の言葉とならなければなりません。
私たちも祐ホームクリニックの約束(YOU CREDO)を作り、毎日の朝礼時、全員で声に出して読みます。4つの約束を決めたからには、私もいい加減なことはできません。
いいことですね。組織がだんだん大きくなると、そうしたものがあるのとないのとでは全然違ってきます。とはいえ、1人でできることには限界がありますから、次の世代にどうやって私と同じ思いを持ってもらうのかが大事だと思っています。
小城 武彦 氏と対談04 幾多の困難に直面される、というよりも困難やリスクを自らが取りそれを乗り越える姿を社会に示してくださっている小城さんですが、そのような行動へと駆り立てる原動力とは何でしょうか。
日本の古い会社が元気になる「鍵」を見出したいという思いです。人材がもう一度活性度を上げ、企業自体も結果としてよくなっていくための「鍵」です。
今ある経営学は コンセプトが欧米産で、日本に合うとは考えていません。恥の文化が根底にある組織をマネジメントするときの「鍵」を見つけることで、日本人の能力を活性化させ、生きがいを 思い出してもらい、結果として日本が発展してくことを願っています。
私たちは高齢先進国モデルとして、医療や介護だけでない生活支援のプラットフォームを作ろうと、多くの企業の方々に参加していただき勉強会をスタートしました。何度かの会議を経て実証実験を行う予定ですが、企業が担うべき公的な面をどうお考えでしょ うか。
企業経営の目的は、企業のミッションの達成にあります。丸善は「知を鐙す(ともす) 丸善」というミッションを達成するために存在しています。お金儲けはその手段にすぎません。
しかし、利益がなければ継続的にミッションを達成することは難しいでしょう。今年142年となる丸善は、3回の戦争と関東大震災を通過してきていますが、蓄えがあったからこそ乗り越えることができました。万一のときのための利益であり、利益は目的ではありません。
社会に貢献するためのミッションには、公共性が内包されていると考えます。CSR活動が巷間言われますが、企業がなすべき社会的貢献は、まずは本業を通して行なうべきだというのが私の考えです。
制約条件が多い中で、どこを最適化していくかは難しいでしょうね。
それが経営の醍醐味です。矛盾したものを一緒にやることの難しさは醍醐味ですね。
私たちは、高齢者が家で安心して最後まで安らかに暮らせるように願い、まずは医療、中でも在宅医療に取り組んでいます。その先には、今の私たちの世代でも将来に不安 なく、むしろ将来に希望を持って今を精いっぱい生きることができる社会へと繋がっていきます。それは企業へもきっと好影響をもたらすはずです。私たちの挑戦と小城さんの挑戦が目指すものは同じであり、繋がっていることを感じます。
優秀な人材の活性度をあげるには、親の医療・介護に不安なく、今全力で仕事に没頭できる環境が必要です。企業がよくなっていけば、高齢者への支援への活力も生まれてきます。そういう意味で、武藤さんと私は補完関係にあることがわかり、非常にうれしく思います。
日本の優秀な人材がリスクを負いながら自分の持つ能力をいかんなく発揮し、 全力で走れるには、安心が必要です。そうした環境を作る武藤さんには頑張っていただきたいですし、私なりのエールをずっと送り続けたいと思います。
やはり安心が、希望と活力ある社会を生む土壌なのですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

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武藤 真祐(聞き手)
武藤 真祐|医療法人社団鉄祐会 祐ホームクリニック 理事長 詳しく知る

1990年 開成高校卒業
1996年 東京大学医学部卒業
2002年 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了
2010年 祐ホームクリニック開設
2011年 祐ホームクリニック石巻開設
内閣官房高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 医療分野の取組みに関するタスクフォース構成員
みやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会 システム構築委員会 委員
石巻市医療・介護・福祉・くらしワーキンググループ委員
経済産業省地域新成長産業創出促進事業ソーシャルビジネス推進研究会委員等公職を歴任

小城 武彦 氏と対談

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