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小宮山 宏 氏(株式会社三菱総合研究所理事長、東京大学総長室顧問)「プラチナ社会」

小宮山 宏 氏小宮山 宏 氏|プロフィール(2011年3月現在)詳しく知る

1967年 東京大学工学部卒業
1972年 東京大学大学院工学研究科博士課程修了
1988年 東京大学工学部化学工学科教授
2005年 国立大学法人東京大学総長(第28代)
2009年 株式会社三菱総合研究所理事長
 

対談内容

高齢先進国である日本において、特に都市部高齢者の孤立に危機感を持ち、その問題を解決すべく、公と連携し、医療を中心とした民間コンソーシアムの形成を試みています。課題先進国の日本が課題解決に取り組むために「プラチナ構想ネットワーク」を設立した小宮山宏氏(株式会社三菱総合研究所理事長、東京大学総長顧問)に、課題解決への道を語っていただきました。


本日は貴重なお時間をありがとうございます。2010年に在宅医療専門クリニックを設立し、都市部高齢者を診させていただいています。高齢社会の課題解決には何が必要か、お考えを伺いたいと思います。
小宮山 宏 氏と対談02 日本はまさに高齢社会で世界の最先端にいて、その姿が世界から注目されています。中国も高齢化が進み、2014年には生産年齢人口が減少に転じます。日本では1970年に高度経済成長が終わり、25年後の1995年から生産年齢人口が減り始めました。
中国では高度経済成長が終わる前に生産年齢人口が減り始めるので、大変な状況が訪れます。インフラ整備で成長する時代はもうすぐ終わりです。セメント投入量で見るとよく理解できます。世界では約25億トンのセメントを作っていますが、中国がその約55%に当たる約13億トンを使っています。
一人当たり14トンで、2年後にはアメリカの16トンに追いつき追い越します。中国とアメリカの国土面積はほぼ同じですが、人口は中国が4.5倍、つまり同じ面積のなかに4.5倍のセメントを使っているということです。
インフラ整備での経済成長は続きません。この先2〜10年で過剰生産、格差、エネルギー制限、水制限、高齢化といった課題が突き付けられます。そのときに解決しなげればならないのが高齢化です。
日本が世界に示さなければならないことは何でしょうか。
私は「プラチナ社会」と言っていますが、その社会の条件は「安心・安全」です。具体的には、自給国家と長寿謳歌社会となります。エネルギーや食糧の自給率を70%にしようと提言しています。
エネルギーの例を挙げると、今の自給率17%を34%にすると、人口減少や家のエネルギー効率向上、自動車燃費向上などでエネルギー消費量が半分になれば、自給率は約70%となります。
それは世界の目標でもあり、資源のない日本が実現することで解決先進国となり、世界をリードすることができます。長寿謳歌社会とは、人生100年時代を目指し、学校で勉強して社会で活躍するということではなく、人がずっと成長していける社会です。それは経済的にも成立する社会でなければなりません。
エコロジーで参加でき、生涯成長できるための雇用があるということです。これがプラチナ社会で、日本がこれから目標として実現し、世界に示さなければならないと考えています。
小宮山 宏 氏と対談01 小宮山さんがおっしゃる「安全・安心」とは、社会に信頼がある、ということでしょうか。今は逆に不安なので、お金をひたすら貯蓄をするという人もいます。年をとって身体機能が落ち誰かに頼らなくてはならないときに備えてのことであると思います。
そのようにして、ストック化している資産は甚大です。日本はもっとお金を使ってもらう社会とならねばならず、高齢者が持つストックを安心の力でフローにしていくということだと思います。
そうした構図を作っているのがスウェーデンです。しかし日本がスウェーデンになるには国が大きすぎます。だからといって道州制へと結びつけるつもりはありません。法律を変えて憲法改正してとなると30年かかってもできないでしょう。
それより今、できることからスタートしたほうが現実的です。世界で今元気なのは、最大でも人口450万人までの小さな国家です。たとえば以前のアイスランドでとてもいいことをやっていると言っても、それを人口1億2700万人の日本に当てはめようとするのは無理で、せいぜい文京区で始めたという規模です。地域によって事情が全く異なるので、日本では自治体ベースで行うのがいいと思います。
小宮山 宏 氏と対談03 おっしゃるとおり、私たちが関わる文京区と北区では全く違います。北区は東京の限界集落と言われ、50%以上が高齢者という地域もあります。しかも高齢者の方が2人や1人で住んでいます。しかもお金もそれほど持っていません。一方文京区は、お金持ちが住んでいて、高齢者が比較的点在しています。区の対応も温度差が激しく、北区は切迫感があり、文京区は楽観的です。
地域で異なるというのが日本の本質です。島根県と東京都は違う、東京の中でも違うという状況で、国が中央で何とかしようとしてもできるはずがありません。現場と政策決定者の距離が限りなく遠くなってしまったのが、日本の困難の本質の一つです。総理大臣が何人も変わり、政権政党も変わりましたが、問題は解決していません。
世界的に見ても、大きな国はどこも苦戦しています。日本のそれぞれの地域で、立ち上がるべき市民が立ち上がり、自分たちの意思で行っていこうとすると、うまくいくところといかないところが出てくるでしょうが、必ずよいところを真似していくという構造があると思います。
ですから、武藤さんのところやプラチナ構想ネットワークのような動きが、うまく連携していくことが必要です。「ネットワーク オブ ネットワークス」がこれから求められるでしょう。
現場から乖離したものはダメだということですね。私も一度医療を離れ、そして再び医療の世界に戻るとき、社会の問題を解決するにはやはり現場が大事と考え、自分で高齢者医療、そして在宅医療をやってみようと考えました。
小宮山 宏 氏と対談04 素晴らしいですね。私の思いも武藤さんとそれほど変わりません。もう少し多くの人が現場感を持ってくれると、日本も動き出すように思います。そのために必要なのが、激励とネットワーク、そしてITでしょう。最後に示したITだけでは動きませんので、人が関与する必要があります。
また、人が関わるから楽しいのです。私は今、私が理事長を務める「サステイナビリティ・サイエンス・コンソーシアム」の関係で、北海道の下川町で林業再生に関わっています。フィンランドやスウェーデンが林業で成功しているのに、日本で成り立たないはずはありません。
成り立たないとしたら全て人為的なものです。林野庁管轄の国有林が8割で、その間に虫食いのように町有林と民有林があり、大規模な効率的な林業ができないのです。
自然を維持するためには「人の手を入れる」ことが必要であり、守りたいものを守るためにも林業をきちんと再生する必要があります。人間が賢ければ、日本の自然を維持し林業を成り立たせることは可能です。
新たな社会を作る、という点でもシンボリックな小宮山さんが地域を行脚することで、それぞれの地域でいろいろなことが動くだろうと思います。
動いてほしいとの思いから行脚していますが、やはり市民が立ち上がらなければできません。現在の構造で生きている人がいて、改革をすれば損をする人も当然出てきます。反対の声は強いのは当然ですが、変えて得する人は、ここがダメなら他でとなってしまうので、日本が動かないのです。最後は人です。
在宅医療をやっていて本当に大事なのは人間への尊厳で、すべての原点だろうと思います。
最終的には、人間の尊厳産業です。人間は波乱万丈の煩悩があるから人間であり、高齢者もそうあるためには、経済が動かなければなりません。人間の心が燃えていくことを具現化するのが経済で、プラチナ社会の条件でもある雇用ということになります。武藤さんの活動は、私の目指すところと近い気がしています。言葉を贈るとすれば、「You are not alone」です。
素晴らしいお言葉に感激です。本日は貴重なお話をありがとうございました。

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武藤 真祐(聞き手)
武藤 真祐|医療法人社団鉄祐会 祐ホームクリニック 理事長 詳しく知る

1990年 開成高校卒業
1996年 東京大学医学部卒業
2002年 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了
2010年 祐ホームクリニック開設
2011年 祐ホームクリニック石巻開設
内閣官房高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 医療分野の取組みに関するタスクフォース構成員
みやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会 システム構築委員会 委員
石巻市医療・介護・福祉・くらしワーキンググループ委員
経済産業省地域新成長産業創出促進事業ソーシャルビジネス推進研究会委員等公職を歴任

小宮山 宏 氏と対談

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