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坂東眞理子 氏(昭和女子大学学長)「自立プラス人を助ける力」

坂東眞理子 氏坂東眞理子 氏|プロフィール(2011年3月現在)詳しく知る

1969年 東京大学文学部卒業
1969年 総理府(後の内閣府)入府
1995年 埼玉県副知事
2001年 内閣府男女共同参画局長
2007年 昭和女子大学学長

対談内容

私たちは都市部における高齢者の孤立を大きな課題と捉え、在宅医療を中心に、様々な企業とコンソーシアムを組んで生活支援をしていきたいと考えております。今年1月、「高齢先進国モデル構想」準備会をスタートさせました。行政官として女性政策に関わり、(著書)女性の品格が社会的ブームを起こした坂東眞理子氏(昭和女子大学学長)に、高齢社会における女性のあり方を語っていただきました。


本日は貴重なお時間をありがとうございます。少子高齢化・核家族化が進む日本で長寿となった女性の生き方について、坂東さんがお感じになっていることをお聞かせください。
坂東眞理子さんと対談01 バブル崩壊あたりまで、女性は会社で働く夫や子供を通じてしか社会と関わっていませんでしたが、会社が社員や家族まで面倒をみる力が弱まり、その後、無縁社会へと変容していきました。
何も縁がない人たちが積出してきた中での新しい縁を、私は「志縁」と考えます。「支縁」との意味も含めると一層いいですね。地縁、血縁は生まれたときから決まっていて、選ぶことはできません。
しかし「志縁社会」(「支縁社会」)では、自分が志を持って支えたいと思えるところで縁を選び取っていけるようになるといいなと思います。
地縁、血縁時代の女性はグレートマザーとして、子供・孫・地域の人たちへの影響力を非常に持っていましたが、核家族化も進み、それだけの力を持っている女性が力を発揮できないと人材の腐敗を招きます。
20世紀後半、女性の社会進出におけるスローガンは「自立」でした。女性にとって自立は大切ですが、自立した女性は志を持って人を支える力を持たなければならないと思います。
社会で女性の果たす役割は、家庭で夫を支えるところから大きなものに変わっています。医療や福祉の分野は女性が能力を発揮しやすい場です。もっと活躍してほしいと思いますが、そのためには何が必要となるのでしょうか。
プロフェッショナルとしての女性たちが、これから大きな役割を果たすことになるでしょう。若いとき、一定のレベルになるまで全力投球しなければならないのは男性も女性も必要なことですが、医師の場合は特に、一定レベルの職業人になっても、過酷な勤務体制が続くのは、システムが少しおかしいのではないかと思います。
看護師については、仕事と家庭を両立できるような仕組みを作らなければならないと、十分ではないけれども配慮は生まれていますが、医師の労働スタイルは男性型ですね。
専門職は専門職がすべきことに集中する必要があります。そうでないとモチベーションは下がります。私たちのクリニックでは、専門職がやらなければいけないこと以外は事務職員が行えるような教育やIT導入などにより工夫しています。
坂東眞理子さんと対談02 医療クラーク制度がなぜもっと広がらないのか残念です。看護師の仕事でも、プロフェッショナルでない部分は別の職種の人と協力するチームをもっと作らなければいけないと思います。
女性医師よりはまだいいとはいえ、看護師も過酷な状況です。フルタイムだけでなく半分くらいパートタイムも組み合わせたチーム看護が、これからは必要となっています。
オーストラリアやアメリカ、カナダのステイタスの高いレジスタードナースは、自分の役割以外のことは他に任せます。日本も、プロフェッショナルな人はやるべきことに特化する方向にいかなければならないのかなと思います。
一人前になるまである時期は集中的に修行すべきですが、その後は弾力的な組み合わせで働く時間を融通できるといいですね。
それには、医療の世界だけではありませんが、正職員とパートで待遇が違うので、同一価値労働同一賃金を日本社会全体は考えないといけません。
そうしたことがないと、少子化もとまりません。
北欧では一時期出生率が落ちましたが、女性たちが子育てしながら仕事のできる体制をつくることで、また上向いています。日本でもぜひそうあってほしいと思います。そのためにも、高齢者が社会からサポートされる立場ではなく、サポートする側に回る必要があります。
私は、母が72歳のとき下の子供を産み、母に子育てをサポートしてもらいました。仕事をする私にはありがたく、娘もいい思い出ができ、母もすごく楽しんでくれました。個人差はありますが、70代はまだまだ人をサポートできます。
今、都市の平日の散歩道で大企業を引退した管理職だったような方をたくさん見かけます。「もったいないな、ご自分の経験や能力をいろいろな形で発揮されればいいのに」と思ってしまいます。高齢社会では一番大切なことではないでしょうか。
本当にそうですね。社会貢献をしたいという気持ちを多くの方がお持ちであるので、それをぜひ社会に活かしたいものです。そのときには併せて「対価」について考える必要があります。
私たちは、仕事をしたらそれに対する対価、つまり評価を行う仕組みが必要と考え、ソーシャルクーポンを検討しています。ボランティアに対して、企業からのサービスを受けることができるクーポンを供与する、という考え方です。
何か助けることをしたいと思う方を引き出し、それを企業がバックアップする形で、社会を支える仕組みができるといいなと思っています。
女性の場合は「孫を育てる」とか「家族のために」というモチベーションを持っている方は多いですが、問題は、孫のいない人が増えてくるということです。娘や息子の結婚年齢が遅くなり、孫のいない人たちも多いです。
そういう方々には、血縁ではない社会の子供たちの世話にもっとかかわってほしいですね。今、里親を引き受けてくださる方が少なく、児童相談所は困っています。愛を必要としている子供たちを、血縁でなくとも一時期育てることを皆がもっとできるといいなと思います。
昔は養子は多くあり、親が若くして死んでしまった親戚の子供を預かるというのは普通に行われていました。今、地縁、血縁が機能しなくなっていますから、武藤さんのおっしゃるような形で、元気な高齢者の方が、サービスを必要としている高齢者を支えるのは大いに意味があります。
また学童保育で子供たちの世話をするのもいいですね。私はNPO理事長として、認証保育所と子育て広場をやっています。ワーキングマザーを応援したいという動機でしたが、一人で子育てに鬱々としている専業主婦のお母さん方にも、心理学や初等教育の先生などの専門家による週1回相談が、非常に感謝されています。支え合いは本当に必要なことです。
坂東眞理子さんと対談03 在宅医療では、老々介護の方、お嫁さんが介護にあたっている方がかなりいて、皆さん疲れています。孤立した子育てのお母さんと同じように、90歳過ぎの親を60過ぎの方がずっとみていくのは厳しいところがあります。
そこで近隣の小さな病院と連携して、一時的に入院させてあげると、たとえ2週間でも家族は全然違う気持ちになります。
介護をしている人の問題で言えば、高齢者虐待の37%が息子です。独身で一人で親の介護を引き受け、介護がうまくいかない、イライラする、愚痴をこぼせないという状況に追い込まれる男性は多いのです。
今までは女性の自立と言っていましたが、自立プラス人を助ける力を持つことは、女性だけでなく男性の問題でもあります。
先生の書かれた「女性の品格」で多くの女性が感銘を受け、社会の大きな流れが生まれました。その背景にはどんなことがあったとお考えですか。
社会へ進出することは必要だが、男性と同じように企業戦士のような働き方をするのか、そういう生き方だけでいいのかと悩み迷っているところに「仕事をすることは大事だが、人間として女性としてやらなければならないことがあるのではないか」というメッセージが受け入れられたのではないかと思います。
品格に対して誤解したイメージもありましたが、私は「私利私欲を求めず、自分の持つ力を困っている人や必要としている人のために使うのが一番の品格である」と申し上げたかったのです。しっかりとした自分の中身を身につけた上で社会に生きるため、表面を整える必要があるということです。
坂東眞理子さんと対談04 マナーとはそういう意味合いですよね。私は「矜持」という言葉が好きで、人間として誇りを持ち続ける人生を歩みたいと思っています。
矜持とはいい言葉ですね。自分自身に本当に力があれば、志があれば、必ず神様が見ていてくださる。応援する人たちが次々と現れてくると思います。
私が今できることは、大学できちんとした教育を行うことです。何をしていいかわからないけれども、いいことをしたいと思っている学生はたくさんいます。その子たちの背中を押してあげないといけないなと考えています。
在宅医療や介護の現場を、多くの方が知りません。表通りを一歩入ったところに悲惨な高齢者がいらっしゃることは、普通の人にはなかなか見えません。
大学生のように若くて、これからいろいろなものを吸収して人生を歩んでいく方々に、こうした日本の姿があり、今ここで何とかしなければならないということを伝えたいですね
在宅介護をなさっているご家族を支えるボランティアなら、学生でもできるかもしれませんので、いろいろな形で応援させてください。
本日は貴重なお話をありがとうございました。元気な高齢者が社会的活動をできる仕組みをつくりたいですし、医療や福祉の現場でもっと女性が働きやすくなるようになることを願っています。

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武藤 真祐(聞き手)
武藤 真祐|医療法人社団鉄祐会 祐ホームクリニック 理事長 詳しく知る

1990年 開成高校卒業
1996年 東京大学医学部卒業
2002年 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了
2010年 祐ホームクリニック開設
2011年 祐ホームクリニック石巻開設
内閣官房高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 医療分野の取組みに関するタスクフォース構成員
みやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会 システム構築委員会 委員
石巻市医療・介護・福祉・くらしワーキンググループ委員
経済産業省地域新成長産業創出促進事業ソーシャルビジネス推進研究会委員等公職を歴任

坂東眞理子さんと対談

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