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鈴木 寛 氏(文部科学副大臣)「高齢社会日本の国家戦略」

鈴木 寛 氏鈴木 寛 氏|プロフィール(2011年3月現在)詳しく知る

1986年 東京大学法学部卒業
1986年 通産省入省
2001年 第19回参議院議員通常選挙に初当選
2009年 鳩山内閣にて文部科学副大臣就任
2010年 菅内閣にて文部科学副大臣再任

対談内容

文部科学副大臣の鈴木寛氏は、医療現場の目線から、救急医療、先端医療、がん対策、医療安全、医療人材育成、医療費問題等、時代が最も求める医療課題に取り組まれ、政策提言や実行を牽引されてきました。高齢先進国である日本の課題解決への国家戦略等について語っていただきました。


本日は貴重なお時間をありがとうございます。高齢先進国である日本が、課題を乗り越えることで、この分野で世界のリーダーになっていけるのではないかと考えています。高齢社会の課題解決への国家戦略についてお伺いしたいと思います。
鈴木 寛さんと対談01 世界最高の高齢社会となった日本で、私が最も心配しているのは、2025年から2030年にかけての都市部の急速な高齢化です。日本政策投資銀行の対患者医師数算定では、2005年を100とすると、2025年には東京都は80となります。
千葉県、埼玉県、神奈川県、滋賀県も8割になってしまいます。現在全国で人口当たり医師不足ワースト3の千葉県、埼玉県、茨城県はさらに悪化することになり、東京においても、三多摩地区、神奈川県、埼玉県、千葉県に隣接する市区は現在でも深刻で、さらに深刻化します。
これからの20年、25年は大変なフェースに入り、これをどう凌ぐのかが国家経営の最重要課題です。課題解決に成功を収め、解決していく過程でノウハウ、マネジメント人材や直接かかわる人材の育成方法がオーガナイゼーションできた場合には、世界への影響力を持つだろうと考えます。
日本の後、世界最大の急速な高齢化が始まる中国では、パニック的状況になります。あるレベルにある医療水準が均てん化されていないことの深刻さは計り知れません。それなりの経済力がついてきていることから、周辺国からの医師引き抜きが起こる可能性もあります。
アジアの医療者の需給、医師の需給に影響を与えるかも知れません。日本は、そこへのソリューションを考えることがアジア政策上の最重要課題になります。そうした意味で、祐ホームクリニックのアプローチは、先行事例と言えます。進める中で知恵や人材などが出てきて、それが関東や関西という日本のソリューションになり、ひいては中国でのソリューションにもつながっていくでしょう。
中国でも「ザイタク(在宅)」という言葉を広めたいですね。 次にお尋ねしたいのは、診療報酬改定の中で急性期医療と地域医療への評価がされている方向において、医療政策の課題は何かということです。
在宅医療は、心と心のコミュニケーションがベースにあり、同時にハイテクノロジーの集積でもあります。ですから、これまでのような先進医療と在宅医療の2分論は全く意味がありません。
医療技術のポータビリティ、モビリティが広がることで、トータルシステムとなるでしょう。救急医療において課題なのは、独居老人の119番コールです。通常医療で足りるが早い対応が必要なものは、在宅ネットワークやホームドクターで対応し、119番は真にER処置が必要なものにしていかなければなりません。
心筋梗塞や脳梗塞などの緊急の際にはもちろん病院へ行かなければなりませんが、亜急性期であれば、我々が1時間かけて行っても間に合うということですね。
鈴木 寛さんと対談02 119番コールに代わって7110番を作りましたが、在宅ネットワークやホームドクターに来てもらえるようになれば、それもいらなくなります。救急医療のボトルネック解消にもつながり、地域医療体制の医療資源投入のポートフォリオが劇的に変わっていきます。
医療資源は有限なので、アクセス、コスト、クオリティに関し、それぞれの実態に応じてきめ細かくプライオリティを変えていかなければなりません。しかし、医療には情報の非対称性が絶対的に存在しているので、そこへホームドクターが介入することでギャップが埋まれば、医療資源の効果的で最適な活用につながります。
病診連携という言葉がありますが、急性期、療養病床、在宅とをベストなタイミングでカスタマイズしていくことが、特に都市部では必要でしょう。長野県は健康寿命が最長で医療費が平均より約15%低く、それを実現できているのは、医師、看護師、保健師、地域住民の情報ネットワーク、つまりヒューマンネットワークがしっかりしているからです。
医療・健康のネットワークの再構築という意味でも、武藤さんの行おうとするシステムは医療問題の根本解決につながると思います。 政府の取り組みは、ビジョンとフレームワークを提示し、各都道府県や都道府県連合がプランニングできるようにすることです。
そのとき、ガバメントソリューション、マーケットソリューション、コミュニティソリューションの3つが、それぞれ行うべきことをシンクロナイズし、同じロードマップ、同じビジョンで、状況変化もシェアしながら全体の状況と個別の状況を総合的に判断して、手分けしてコラボレーションしていくことが必要となります。
シェア・アンド・コラボレーションが非常に大切になるということです。これからはコミュニティソリューションが重要となり、医療専門家、ボランティア、受益者が情報をシェアして、私は熟議と呼んでいますが、それぞれのケースについて徹底的に議論することで、個別のソリューションが出てくると思います。
85歳の末期がん患者さんでも、ソリューションは多様性があり、様々考えられます。ここで医師は、社会資源や不可視資源、ネットワークなど全てを活用しながら、演劇ディレクターのような新たな役割を果たす必要があります。
おっしゃるとおりだと思います。高齢者は医療や介護だけがほしいわけではなく、生活をしっかり守ってほしいという希望をお持ちで、医療・介護はその一手段ですから、いろいろなチームの人たちと連携しながらやる必要があり、そこで医師は社会の司令塔であるべきです。
前回の診療報酬改定は、コインの裏表となる救急医療と24時間在宅対応を緊急避難的に行いました。あくまで止血と痛み止めという応急処置です。これからは体質改善を本格的にしていく必要があり、2012年の診療報酬・介護報酬同時改定は、20年後に深刻化する高齢社会に向けたビジョンとその実現のための第一歩として、非常に大事な改定となります。その中では、日常からのネットワークコミュニティづくりへ誘導するような内容も必要だと思います。
これまでの診療報酬改定は力関係による決め方でしたが、ビジョンとエビデンスに基づく診療報酬体系にしていかなければなりません。エビデンス・ベイスド・プライス・セッティングが重要となります。急がば回れではありませんが、結論を見出すための熟議のプラットホーム、熟議に参考情報を提供するシンクタンク、議論するアカデミックなコミッティなどを整備することがまず必要だと考えます。
最後に、在宅医療に関わる医師不足についてお聞きしたいと思います。在宅医療の研究活動、在宅医のキャリアパスなどについてはいかがでしょうか。
在宅医療は、明らかに政策科学の対象です。単なる公衆衛生を超えて、ポリシーサイエンス、ソシオロジー、リーガルエンジニアリングなどが入ってきます。自然科学、社会科学、人文科学という3つのサイエンス分野をそれぞれ深く統合した新しい学問体系が生まれてくるでしょう。
私はそうした学問体系をつくりたいと思っています。臨床とアカデミズム、ソーシャルビジネスを構想し、この3つのセクターを回るようなキャリアができればいいなと考えます。その結果、たとえば地域医療学博士、家庭医療介護ケア学博士といったものが出てくる可能性があり、そうした人たちが今後、ソーシャルアントレプレナーにもなっていただき、さらなる活性化を図ってほしいと思います。
今後、日本に続いて高齢社会となる中国はじめアジア諸国、欧米諸国にも、このモデルを展開することが可能になります。非常に魅力的なキャリアであると思いますので、可能性を次なる人材にシェアしてもらうことが望まれます。
武藤さんの試みには心から期待していますし、お手伝いできることがあればご協力いたします。そして、また議論させていただきたいと思います。
鈴木 寛さんと対談03 本日は貴重なお話をありがとうございました。私たちは、官だけでは賄いきれない社会のなかで民間の活力を入れていく試みをしています。
今日のお話で、コミュニティがベースにあるガバナンス、マーケットでなければならないということに意を強くいたしました。今後ともよろしくご支援をお願いいたします。

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武藤 真祐(聞き手)
武藤 真祐|医療法人社団鉄祐会 祐ホームクリニック 理事長 詳しく知る

1990年 開成高校卒業
1996年 東京大学医学部卒業
2002年 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了
2010年 祐ホームクリニック開設
2011年 祐ホームクリニック石巻開設
内閣官房高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 医療分野の取組みに関するタスクフォース構成員
みやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会 システム構築委員会 委員
石巻市医療・介護・福祉・くらしワーキンググループ委員
経済産業省地域新成長産業創出促進事業ソーシャルビジネス推進研究会委員等公職を歴任

鈴木 寛さんと対談

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